明け方の落雷
翌日の明け方4時……ビッシャーンと何物かの大きな音が爆睡中である私の耳の中に響いた。
その大きな音で、はっと私は目を覚ました。
窓から外の様子を眺めると、太陽が顔を出そうとしていることしかわからない。
しかし、時間の経過に連れて、黒に近い、どんよりした灰色の雲が太陽を隠した。
そして……雷が大きな音を立てて落下した。
「そうか、あの時の迷惑な音は雷だったんだ」
私はぼそっと呟いた。
しかし、それだけでは終わらなかった。雷は私がいるところから1キロ離れたところに多数の雷が容赦なく空から自由落下する。
私は匂いをかぐと、何か鼻に刺激臭がツンとくる。
その仕業は、そう、グルミンたちが言った、山火事というものだ。
それに気づいて、私は栞菜たちを強引に叩き起した。
「何だあ、また俺らの出番か?」
憧君は左目を左右にこする。
「そう。今、山火事が起こって大変なの」私は真顔で言うと「よし、現場に向かおうか」と政はフラフラしながら立ち上がった。
4時半、現場に到着した。この辺に住んでいる近所の人は助けを求めながら逃げている。
「レーダー、ここは頻繁に雷が落ちるのか?」
私はレーダーに尋ねる。
「ハイ、ヨクカミナリハオチマスガ、カジマデハイキマセン」
「雷はよく落ちる、火事は起こらない……うーん、どうなっているのだろう?」
私はますますわからなくなった。
「木に登って何か探ってみない?」
栞菜は木に登る準備をする。
「それもそうだな」
私も木を登り始めた。
探し始めてから30分、私は正八面体型の濃い緑色で透き通った物体を1つ見つけた。
「みんな、こんな物体を見つけたのだけど」
私は栞菜たちに情報を伝える。
憧君はそれを受け取って、調べ出す。
「大きさは5センチ前後、機能は電気を導かせる……そうだ、コイツの仕業に違いない!」
憧君はひらめく。
「なるほど。でも、万が一雷がこの物体に落ちたら危ないよ。電圧手袋をした方がいいよ」
栞菜はそれを両手にはめる。
私たちも電圧手袋をはめたあと、政はレーダーを取り出して
「そもそもこの物体の名称は何なんだ?」
と聞く。
「ソウデスネエ……“エレクトリシティーグラビティー”トイイマス」
「名前、長くね?」
憧君は簡単な名前が無いのかと唇をへの字に曲げる。
「ちょっと待て、重力によって電気が落ちる……という意味だから“エレクトリシティーグラビティー”しかつけようが無かったんだよ」
私は左手で顎を支える。
「その通りだ」
どこかから聞き覚えのある声が雷雲から響き渡る。
「もう誰かはわかってるぞ。さっさと出て来い!」
私は偉そうに言った。
姿を現したのは、予想通りギャラクシー・プリズムだった。
「お前ら、明け方に何なんだ?」憧君は眠気と怒りが入り交じった声をあげると「そんなものは運と言うものだ」と高梨が首の骨をゴキッと鳴らす。
「何が“運”なんだよ!?ここ最近、頻繁に雷を落としている君が言う言葉か?」
栞菜の目つきが普段より細くなる。
「ちょっとね、機械の調子が悪かったんだよ」リモコンを両手で持つ藤岡を見た私は「あっそ。で、森林を燃やして何をするつもりだ?」と素っ気ないような言い方をする。
「森林を燃やしてよ、我らの好きなように広場や城を建てるのさ」
平賀は笑い始める。
「おい、それはどういう事だ?自然破壊になるし、森林が無くなったら二酸化炭素まみれになって、酸素が作られないし、土壌が痩せて作物だって育たない。なのに、森林を全焼して自分らの好きなように扱うのは、お前らの生活に応えるし、酸素濃度が薄くなるから生きていけない。馬鹿じゃないの!」
私はしかめっ面をした。
ギャラクシー・プリズムのメンバーは私の言葉に驚いて、何も答えない。
「やっぱり、何も考えていなかったんだ」政は落ち着いた声で言うと「……やられた。アタイ、そこまで考えるの忘れてた」と黒沢は地面をぼんやりと見る。
「やっぱりな。だからここで失敗しちゃうんだよね」
私はそこら辺りをうろちょろと歩く。
「やかましい!俺らの考えなんてどうでもいいんだよ!」
平賀はムキになって私を襲いかかる。
その様子を見た私は、反射的に平賀のお腹を右足で遠慮なく正面蹴りをした。昨日、政のみぞおちをチョップした時よりはるかに強い力で蹴った。
平賀はお腹を両手で抱えると同時に膝をつき、それから地面に頭をゴツンと打った。
「どうだ、参ったか」
私は両手を胸の前で構える。
「参ってないわ!まだオイラがいることを忘れたのか!?」
高梨が平賀に代わって襲いかかる。
「やはり、何もわかってないんだね」
私は呆れた顔で高梨の右腕を狙い、螺旋手刀という技を使って攻撃した。
思った通り、高梨は右腕を左手で支え、私のそばで倒れる。
「どうだ君たち、私に手を出せるか?」
私は高梨の背中に右足をズッシリ乗せ、アピールする。
藤岡と黒沢は黙ったまま突っ立っているが、まだ諦めていないようで怖い目つきで私を睨む。
「もうねぇ、ウチらを睨んだって遅いわよ」
栞菜の出番が始まった。
「何だって!?あたしは諦めてないんだよ!」
藤岡は肩より下の青色に染まった髪の毛を、肩より後ろに寄せる。
「もうGIVE UPしたら?リモコンはウチの手元にあるよ」
栞菜は藤岡がいつの間にか落としてしまったリモコンを手にしていた。
栞菜はリモコンをガチャガチャ操作し、藤岡と黒沢に700ボルトの雷を落とした。
2人は緑色の電気を浴びて、バタンと仰向けに倒れた。
最後に、栞菜はハンマーでリモコンを粉々になるまで叩きつけた。
そうすると、ギャラクシー・プリズムは4次元の世界から姿を消した。
「やっと4次元を制覇したね」
私はふぅーとため息をついた。
ようやく日が出てきて、朝になった。雷雲は一瞬にして消え去った。
「水莱たち、ありがとう!お蔭でアタイたちは普段通り、安心した生活が出来るよ」
アンナは真っ白な歯を見せる。
「それは良かった」
私は微笑む。
「最後に、君たちが作った家を持って帰りな。どこかで役に立つ時が来るかもしれないぜ」
シャルンは私たちが手をかけて作った木をたった1人で持ち運んできた。
「そうかなあ。役立つ時が来たらいいねんけどな」
政は冷や汗をかく。
その木は私のレーダーに預けることになった。それでも、私のレーダーの容量は余裕に残っている。
「では、私たちは時間だから、元の3次元に帰るね」
私はそう言ってリンナたちに別れを告げた。
向こうもいつも通りの生活が出来る喜びを見せて見送った。
午前8時、私たちは異次元研究室に戻った。
「お疲れ様、君たちが見つけたエレクトリシティーグラビティを4次元カプセルの中に入れて」
「はい」
眞鍋博士に返事をした憧君は正八面体の物体を4次元カプセル中に入れた。
いつもとは違って、爽やかな緑色の光を放って、4次元エネルギーはMAXになった。
「ああ、眠たいな。で、この液体はメチルグリーンで出来ているのですか?」
私は眞鍋博士に聞く。
「当たり!確か、メチルグリーン溶液はDNAを緑に染める液体だったはず」
眞鍋博士は答えた。
「ほとんど化学薬品ですね」政は呆然と4次元カプセルを眺めると「そうやな。僕は化学の先生だからな」と眞鍋博士は歯を光らせる。
「えっ!じ……じゃあこの学校の化学専門の先生なのですか?」
私は今まで以上に驚く。
「そうだよ。ただ、君たち2年生には教えていないけどな」
「嘘だぁー!」
憧君は異次元研究室に響き渡るくらい叫んだ。
「いや、本当だよ。3年に化学を教えているから知らないだけだよ」
眞鍋博士は白衣のポケットに手を入れる。
「それは知らんかったー」
栞菜も驚いた。
とにかく、水莱の力は半端なく強いことがわかったし、眞鍋博士はミステリー高校の化学の教員であることを初めて知った。
そんなわけで、今回は驚くことばかりであった。