ログハウス造りと菓子パーティー
7月15日の14時、またもや眞鍋博士から異次元研究室に呼び出された。
「博士、せっかくの5時間授業だったのに、何故呼び出すのですか?」
栞菜はヘトヘトだ。
この期間は懇談期間なので、ラッキーなことに短縮授業で、いつもより早く授業が終わるのだ。
「今日は、4次元の木の世界に行って欲しいのだけど」
眞鍋博士に言われた私たちは
「木の世界……」
と4次元を思い浮かべようとする。
眞鍋博士は巨大コンピューターからいつも通り画像を引っ張る。
「ほら、アマゾンの熱帯雨林のように木が密集している。よく見ると、幹の中に人が住んでいる」
「木が倒れないもんなんだね」
私はぼんやりと画像を見る。
「本来はな。でも、倒れないはずの木が、この通り山火事が起こったらしく、木が焼失していっている。絶対ギャラクシー・プリズムの仕業だと思う。だから、これを食い止めてくれへんか?」
「了解!」
私たちは敬礼した。
今度は4次元カプセルの前に立った。やはり、黄緑色の液体が徐々に減っている。
眞鍋博士は黄緑色のボタンを強く押した。私たちは黄緑色の空間の中に入った。
「なんで5時間授業の日にギャラクシー・プリズムを食い止めないといけないんかなあ?」
政は猫背状態でノロノロと歩く。
「仕方ないじゃん。博士の言うことを聞かなかったら、異次元の世界はどうなるのよ?」
私は政のみぞおちを左手で思い切りチョップをする。
「痛いなあ!」
政はみぞおちを左手で抑える。
「本気でやったもん。かと言って私は右利きだから」
私は格好をつける。
「やられた……」
政はダウンしてしまった。
辺りをウロウロしていると、4人の学生らしき人が私たちに話しかけた。
「君たちはどこから来たんだい?」ある男子が言うと「3次元から」と栞菜は涼しい顔をしながら腕を組む。
「なぜここに?」
クールな女の子が尋ねる。
「最近、山火事みたいなものが、よく起こっているんだってね」
私は言った。
「そうなの。例年よりも変に山火事が多いの。体に火傷を負ってそのまま亡くなる人が少なくないの……」
もう1人の女子が今にも泣きそうになりながら応える。
「わかった。僕らが原因を突き止めるから安心しな」
政は自信満々に親指を突き出す。
「それはどうやって?」もう1人のぼんやりした男子が聞くと「ま、それはこれからさ」と憧君はニヤッとした。
「そうだよ。ちなみに君たちの名前は?」
私は問いかける。
「アタイはアンナ」
クールな女の子が真剣な目つきをする。どうやら、山火事がしょっちゅう起こる理由を突き止められないと思っているのだろう。
「オイラはグルミン」
ぼんやりした男の子が言う。
「あたしはリンナ」
もう1人の女の子が言う。
「オラはシャルン」
最初に話しかけた男子が言う。
それに対して私たちからの自己紹介を終えたあと、リンナは住まいについて話し始めた。
「あたしたちは太い木の幹に穴を掘って家を作っているの。引越しなどをするときは家具を全部外に出して木を切り倒し、燃やすの」
「木を燃やすのはあまりにも哀れだから、引越しをする家は滅多にない。よって、家を決めるときは慎重に選ぶんだな」
グルミンはエッヘンと決めポーズをした。
「なるほどね。じゃあ、家を探そっか」
私は辺りをじっくりと見渡す。木の葉で空が隠れるほど木が生い茂っている。
街の近くに運良く新の木を見つけた。街の近くにしてはかなり静かだ。
「この木を掘るとするか」政はドリルを持つと「そうやな」と栞菜もドリルを用意する。
3分後、まずは政が慎重にドアの形に掘る。切ったドアの形を憧君がのこぎりで丁度いい形にする。
「よし、この木は直径3メートルという珍しい木だから……よし、4階建てにしよう」
政は太い木に目を澄ます。
「そんなに?」
私は眉をひそめる。
「玄関、台所、風呂場、寝室……となると、少なくとも4階は必要不可欠になるよ」
栞菜はヘルメットを外して、再びかぶる。
そういうことかと私は納得した。
30分後、ようやく2階まで完成した。あとは風呂場と寝室だ。
「次は風呂場か……と言っても、どうやって水をここまで汲み上げるのか?」憧君は胸からビーズ・ネオンを取り出して聞くと「ソレハ、キノドウカンヲリヨウシテ、クミアゲルノデス」という返答が来る。
「木の道管……なかなか生物学的なことを言ったねえ」
栞菜は憧君のレーダーを覗きこむ。
「ということで、風呂場を作ろうか」
政は掘った時の大きな木くずで浴槽を作り始める。
3時間が経過した。もう18時だ。家はそろそろ出来上がる頃だ。
「レーダー、簡易ガスコンロとじゅうたん、4人分の寝袋を用意して」
私はビーズ・ネオンに頼む。
「ショウチシマシタ!」
ビーズ・ネオンは嬉しそうに返事をした。
「よし、レーダーが持って来てくれたから、あとは設置だけだ」
窓の穴も開け、ついに……
「でーきた!」
栞菜はバンザイする。
床も天井も丸太で出来た、まさに木の中のログハウスが完成した。
「俺は腹減ったから、飯買いに行ってくるわ」
憧君は慌てて店に行ってしまった。
「買いに行ってくれるのは助かるけど、相変わらずせっかちだなあ」
政は2階でゴロンと横になる。
私も栞菜も2階で横になった。
10分後、憧君は4人分の牛丼を持って帰ってきた。
「ありがとう」
私たちはゆっくり起き上がって、弁当を食べ始めた。
「ここの牛丼屋、超人気でさあ、俺のあとに多くの人がズラズラと並んでいたぜ」
憧君は牛丼を口いっぱいに頬張る。
「そうなん。何か馴染みの牛丼より違うな、と思ったら……」
私は水を少し飲む。
あんな話をしている間に、私たちは一瞬で食べ終えてしまった。
「早く食べ過ぎたか、物足りんなあ」
政は足を伸ばして完全にリラックスする。
「と言うと思ったからお菓子を買ってきたのさ」憧君は嬉しそうに口元を歪めると「おっ、さっすが!」と私はニンマリした。
そういうわけで、思いっきり夜食の菓子パーティーが始まった。
「俺が買ってきたのは、ポテチ5袋、クッキー3箱、チューイングキャンディーが4パック!」
「嬉しいけど、お前、そんなお金どこからやって来たんだい?」
政はあぐらをかいて憧君に尋ねる。
「なーに、簡単さ。レーダーが3次元で言う“日本銀行券”を本物と全く同じものを作ってくれたんだよ」
憧君は4次元の通貨であるリンダという薄緑色で本物のお札をピラピラと目立つように振る。
「じゃあ、2次元に行った時だって、そのような手段でお金を作ったのか?」
政の顔色が一気に青ざめる。
「当たり前だろ!?話の流れからしたら、そういう答えになるんだよ」
憧君は初めて目を細める
「マジか……」
政は両手で顔を隠す。
「えっ、お前、自腹切ったんか?」
憧君は政に指を指した。
「当然や!そんな機能を僕らが知るわけないだろ!?」
政の目は悔し涙でいっぱいだ。
「まあまあ、話はそこまでにしよう。せっかく憧君が買ってきてくれたお菓子が不味くなって台無しになっちゃうよ」
私はこの状況を水に流そうとした。
「俺、言い過ぎたかな?」
憧君は少し反省した。普段は猛反発するのに珍しく反発しなかった。
政が落ち着いたあと、菓子パーティーが再開した。
「いやあ、こんな贅沢なパーティーは滅多にないからねえ」
栞菜は嬉しそうにポテトチップスのうす塩味を開封した。
「何か、晩御飯より量が多い気がする……」
私は少し引く
「その通り!杉浦、よく気がついたな!」
憧君はゲラゲラ笑いながらクッキー箱を開封する。
「えー、そんな、体に悪いよ」
栞菜は恐る恐るチューイングキャンディーを開封する。
「まさか、いつもご飯の食べる量小なりお菓子を食べる量、じゃないだろうな!?」
政は憧君に顔をグイッと近づける。
「ピンポーン、大当たり!」
憧君は上機嫌でポテチを1度に多くの量をつまむ。
それで憧君のお腹が突き出ていたのか、と思うと私は呆れてしまった。
「おいおい、ピンポーンって言うてる場合か!?」
政は眉を額に向かって持ち上げる。
「落ち着けって。せっかくの菓子パだぞ。少しは黙ろうぜ」
憧君は上機嫌で食べかけのクッキーを右手に持って政を落ち着かせる。
「ゴメンゴメン、僕が悪かった。自首するよ」政は冷や汗をかくと「あのさあ、君、自首の使い方間違ってるよ」と私は何故か興奮しながら指摘する。
「自首というのは、捜査機関に対して犯罪事実を申告して処分を求める時に使うの。政は別に罪を負っているわけでもないし、大して悪いこともしていないから、水莱の言った通り、自首という言葉は使わないの」
栞菜は真面目な目つきをして政をじっと見つめる。
「そんなことも知らなかったのか?」
憧君は笑いながらジュースを飲む。
「うん」
政は素直に返事をした。
「しっかりしろよー」
私はクスクス笑った。
「わかったよ」
政は私たちに突っ込まれ過ぎて疲れきったようだ。
「おお、それで良い。終わりよければすべて良しだからな」
憧君がそう言ってから私たちは爆笑した。
22時、私たちは入浴や寝る支度を全て終え、今から寝ようとしている。
「今日は、色々と疲れたなー」
私は4階の寝室で真っ先に眠りについた。
「ギャラクシー・プリズムが悪さしなかったら良いのだけど」
栞菜も目を瞑った。
「それだったら、4次元に来ていないな」
政は微笑みながら寝た。
「まあな」
憧君も寝袋を抱き枕扱いして気持ち良さそうに夢の世界へ行った。