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DIMENSIONS・ENERGY  作者: 河松星香
第2章 海底の珍しい桜
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変わり果てた桜

 6月17日の放課後の16時20分、私たちは眞鍋博士に呼ばれて異次元研究室に来た。約2ヶ月ぶりだ。


「博士、今日は何の御用ですか?」


 栞菜はコンピューターをいじっている眞鍋博士を呼ぶ。


「ああ、ちょっとこっちに来てくれないか」


 私たちは巨大コンピューターの所に集まった。


「今回は、2次元の水の世界に行って欲しいんだ」


 眞鍋博士は2次元の様子の写真を引っ張る。


 場所は海底。海水に圧迫されながら2次元の人々は生活している。


「えっ、ちょっと全部水じゃないですか!呼吸できるんですか?」


 憧君は目を丸くする。


「出来るよ。3次元と違って酸素が70パーセント含まれていて、鼻が痛くならないように上手いこと出来ている海水だよ」


 博士の目線はコンピューター一直線だ。


「へえ」


 私は呆然とした顔でコンピューターを見る。


「で、ここからが本題。2次元には桜があって昔は毎月桜が満開になる。しかし、ギャラクシー・プリズムが何らかしたせいで、桜が全く咲かなくなってしまった」


 眞鍋博士は満開の桜の写真をズームアップする。


「別の意味で珍しいですね」


 政は小さい声で言った。


「ホンマに」


 憧君は腕を組む。


「異次元って、不思議やな」


 私は真面目な顔でモニターを見る。


「と言うことで、2次元を助けてあげて」眞鍋博士は異次元を操作するボタンの前に立ち、「了解!」と私たちは敬礼をした。


 今回は2次元カプセルの前に立つ。綺麗なメチレンブルー溶液はのんびりと減っていく。


 眞鍋博士はマリンブルー色のスイッチを押し、目の前に青色の空間が現れた。


 そして、青色の空間から涼しい風が吹く。私たちはゆっくりと吸い込まれた。



「ちょっと、前がぼやけて見えない!」


 2次元に来た栞菜は目を強く閉じる。


「その上、私は目のアレルギーを持っているからかゆい!」


 私はレーダーにゴーグルを持ってくるように頼む。


「お前らなあ、2次元って水の世界だろ。あらかじめゴーグルぐらい用意しろよ」


 政はポケットから黒色のゴーグルを取り出す。


「うっかりしてた」憧君が突然話に割り込むと「お前もか!?」と政の目は怒りモードになった。



 5分後、私たちはスクール水着にゴーグル、まるで水泳の授業を受ける体制になった。もちろん、標準服はレーダーに預かってもらった。


「まあ、着替えたところで、何か寒くない?」


 憧君は軽く身震いする。


「当たり前だろ。ここは海底よ。太陽の光なんて少ししか届いていないんだよ。そりゃあ寒いわ」


 私は海面に目を向ける。ほんのりと太陽の光が海底を灯す。


「でもさあ、例年の冬よりも寒いよ。暖かい所へ移動しよう」


 栞菜は先に進む。


 少し歩くと、水温が急に上がってきた。


「うん、ここは30度シーあるね」


 栞菜はレーダーの温度計機能を使う。


「いい感じだね。ところで、家を探そうよ」


 私は辺りを見渡す。


「そうだけど、人通りが多いのに、家はほとんどないな」


 政も辺りを見渡す。


 ここは銀杏通り。そこら辺にあるゴツゴツとした岩石は穴を掘って店になっている。店と店の間には1本の銀杏の葉が緑で染まっている。


「町外れにあるとか……」栞菜はうつむいて考え、憧君は「とりあえず出てみようか」とすかさず決断した。


 銀杏通りを通り過ぎると、あらゆる場所に2メートルくらいの岩がたくさんある。


 しかも、高さ170センチ程の空洞がある。周りには薄い青緑色のベールのようなものが張っているものもあれば、張っていない所もある。


 一体それは何なのか?


「君たち、何立ち止まってるんだ?」


 突然女子高生が声をかけた。


「いや……家を探してるんだけど」


 政は後ろを振り向く。


「なあに、周りにある空洞の岩が家やで。ベールが張っている所は誰かが住んでいて、張ってない所は誰も住んでいない、と言うことになるんやで」


 今度は男子高校生が言う。


「そうなん。私、3次元の人間だからわからなくて……」


 私は少しうつむく。


 向こうの4人は何も言えなくなってしまった。


「そう。ウチらはここの次元の人じゃない」


「俺らは2次元を救うためにやって来た」


 栞菜、憧君は簡潔に言いたいことを伝える。


「2次元を……?」


「救うため……?」


「ああ。桜だよ。どんな桜かは知らないけど、毎月咲いていたのが年に1回しか咲かなくなったと聞いたから、何とかしようと思って」


 私は格好よく言う。


「そうなんだよ。毎月違う色の花を咲かしてくれていた。でも、今は花を落として枯れ木みたいで……しかも、たった1本しかないのに……」


「わかった。僕らが元通りにしてみせるよ!」


 政は断言した。


「本当に?!」


「うん、任せて!」


 栞菜は目をキリッと光らせた。


「ちなみに、名前は?」


 憧君は問いかけた。


「俺はブランマ高校3年のスワン」


「僕はスワンの弟、高校2年のスリン」


「あたしはスリンの友人、高校2年のミウ」


「アタイはミウの妹、高校1年のミヨ」


「みんな同じ高校?」政はキョトンとすると「そうやで」とスワンがあっさりと答えた。


「こっちはミステリー高校2年の杉浦 水莱。ヨロシク。隣は……」


 と順番に私は自己紹介をした。


「こちらこそよろしく」


 ミヨはさっぱりした顔つきをする。

 


 喋り始めてから10分後、私たちが求めていた家の話になった。


「普通は岩に名前が彫られているの。引っ越す場合は辺りにある砂で彫ってある名前を埋めて住む前の家に戻すの」


 ミヨは誰も住んでいない家の前に立つ。


「なるほど。確かに名前は彫られていないね」


 栞菜はその岩を軽く触れる。


「だから、君たちはこの家に泊まっても良いんじゃない?」


 スワンはミヨの隣で言った。


「そうしよっか」


 憧君はその岩の中に入った。


「ありがとう、助かったよ。もう17時だから、また会おうね」私は笑顔で言い「うん。じゃあ、またね」とミウたちは手を振った。


 その後、私は足元にあった石で岩に私たちの名前を彫った。


 すると、直径5メートル程の青緑色のベールが張られた。


 ベールの中には空気になっている。海水が入ってこないように工夫されていたことがわかった。

 

 私たちは岩の中に入る。中央にはらせん階段がある。部屋は地下にあるようだ。


 らせん階段を使って降りると、地下1階は広いリビングとキッチンがある。テレビや食器棚、ソファー、調理器具まである。


 こんな家に泊まっても良いのか?と私は思った。


 地下2階は6つの寝室がある。情熱、クール、陽気なイメージなどの1つ1つの部屋の雰囲気が全く違う。


 最後の地下3階はお風呂場。それどころか本当に温泉。ラベンダーやバラの香りが鼻にツンとくる。


 とりあえず、ゴツゴツした岩の中よりも地下の部屋の方が別世界かのように広い。



 17時丁度、私は時計を見たとき、すかさず

「もう夕食の時間だ」

 と少し慌てて言った。


「ほんまや」


 栞菜は冷静に答えた。


 すると……


「おーい、皿うどん買ってきたぜー」


 憧君と政が帰ってきたのだ。


「もー、遅いと思ったらぁ」


 私は半分乱暴に言う。


「まあまあ、俺らのおごりだから許してくれよな」


 憧君は唇を突き出す。


「マジでおごり!?冗談でしょ?」


 栞菜は半分期待した表情をする。


「いや、マジで。だから、夕飯は杉浦と長石の2人で作って」


 政は笑っているが目はニヤニヤしている。


「やったー、ありがとう!じゃあ作るわ!」


 私はソファーから飛び上がるように席を立った。



 5分後、政と憧君はテレビゲームをし、料理は私と栞菜で作ることになった。


「あのさあ、私、全然料理できないねんけど……」


 私はニンジン2本とメークイン2個をナイロン袋から恐る恐る取り出す。


「家事も全く手伝わないの?」


 栞菜は半玉の白菜を水道水で洗う。


「うん、手伝うこと自体が嫌」私は思い切って言い切ると「何でやねん」と栞菜は笑いながら引き出しから包丁を取り出す。


 野菜を軽く洗ったあと、私は右手に包丁、中央には1本のニンジンがある。


「皿うどんだから、これを拍子切りにする」


 栞菜は素早くニンジンを細く切る。


「えっ、待って、そもそも拍子切りってどうやってするの?」


 私は大ピンチ。


「どんだけ料理をしないねん……」


 栞菜は呆れながら渋々拍子切りのやり方を教える。



 20時、夕食の皿うどんが出来た。


「ゴメン、お待たせ」


 私は大盛りの皿うどんをテーブルの上に移動させる。


「遅いぜ、まあ楽しく通信してたけど、俺の方が強かったみたいだなあ」憧君は政を見下すように言うと政は「何だよ、僕はなあ、そのゲームをするのは初めてやったし」と反発する。


「はいはい、ご飯食べよう」


 栞菜は席に着いた。



 翌日の深夜1時35分、みんなが寝静まっている頃、私はたった1人で珍しい桜を見に行った。


 レーダーの地図機能を使って桜までの道のりを確認する。


 10分かけてようやく珍しい桜に着いた。


 桜はミウたちの言ったとおり、葉が生い茂っているわけでもなく、真冬のようにつぼみが付いているわけでもなく、本当に枯れている。


 私はそれを見て、栞菜たちに知らせようと一旦家に帰ることにした。

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