氷上リレー
夕食会が済んで寝泊り会になった翌日の深夜2時。
私は暑いなと感じてダウンジャケットを脱ぐために起き上がったら、何か城がちょっとずつ溶けているような……と私は思った。
私は、一晩でクリスマスツリーが消えると言う情報を思い出した。パーティーがあまりにも楽しすぎて忘れてしまったのだ。
私はロングダウンジャケットとビーズ・ネオンを手に持って外に出る。
「あんだけ寒かったのに、ジャンバー1枚と手袋、マフラー、耳当てだけでイケるとか日本の冬みたいだね」
私はレーダーに話しかける。
「ソウデスネエ。マタ“ギャラクシー・プリズム”ノゲンインブッシツノセイデハナイデショウカ?」
「そうじゃなかったら、この次元には来てないよ」
私はICE CASTLE付近で見つけたクリスマスツリーの所に向かう。
「あれ、ツリーが無くなっている!」
私はギョッと驚く。
また何かの原因物質があるなと思って足元を調べると、ローズピンクの小さな立体の星型の物質が100個くらい散らばっている。
「これが今回の原因物質か。栞菜たちを起こさないと!」
私は急いで城へ引き返した。
私は寝泊り会の部屋の中に戻り、政たちを起こす。
「何だと!城の前にあったツリーが溶けたんだって!」
憧君は慌てて城を飛び出す。
栞菜たちも歩いて現場に向かった。
原因物質が見つかった所に着くと、私はレーダーを取り出して物質名を聞く。
「コレハ“ヒートボンバー”トイイマス。コイツハキンナドノキンゾクヲ、カンタンニトカスコトガデキマス」
「金などの金属も余裕で融かすことが出来るんだ。王水みたい」
王水は濃塩酸:濃硝酸=3:1の割合で混合した液体で、白金や金を溶かすほど相手を酸化させる力があることを思い出し、私はうつむいて考え事をする。
「コイツのせいで出来上がったツリーを一晩で融かしたのか」
政はヒートボンバーをみつめる。
「と言うことは、ギャラクシー・プリズムがヒートボンバーを出来たてのツリーに付着させたことになるな」
栞菜は足元にあるヒートボンバーを掴む。
すると、栞菜の指先にあちこちからヒートボンバーが熱を放出しながら集まった。
栞菜は思わず手からヒートボンバーを離してしまった。
ヒートボンバーは1つの塊になった。
しばらくして、憧君の背中に汗がかいたような感覚がして偶然後ろを振り向くと、ギャラクシー・プリズムがいた。
「ここまで来たら誰の仕業かわかってくるよね」
黒沢は奇妙な顔をする。
「言われなくてもな!」
政は両手の拳を握りしめる。
「とうとうばれちゃったみたいね」
藤岡は肩の骨を鳴らす。
「ギャラクシー・プリズムの仕業であることは、前々からわかってたんだけど」
私は藤岡たちを睨みつける。
「と言うわけで、今回はスピードスケートで決闘だ!リレー式で次の走者へとたすきを繋ぐ。良いな!?」
高梨は青紫色のたすきをかける。
「良いだろう」
私はスピードスケート用のシューズに履き替える。
深夜3時半、今回の決闘場のパーススケート場に着いた。
観客席の中央にスピードスケートのコートが描かれている。
第1走者の憧君は赤いたすきを左肩にかけた。
「位置について、用意……」
ピーッと栞菜がホイッスルを鳴らす。
第1走者は憧君VS高梨だ。
途中でコースの入れ換わりがあるので、どちらがリードをしているかはわからないが、今のところは高梨がリードしている。
「憧君、そんなヤツに負けてどないすんねん!」
政は憧君に負けん気を与える。
「おおおおぉぉぉぉ!そうだったー!」
憧君はその言葉を聞いて出し切っていないスピードを出し切って、見事に高梨を抜かした。
「憧君、その調子!」
私は憧君を褒めた。
1周して、第2走者へとたすきが行った。
第2走者は栞菜VS藤岡だ。
「高梨と言うヤツが抜かされた分を取り返せよ!」
平賀は藤岡に命令する。
「オイラがミスったからってそんなことを言わないでくださいよ」
高梨は言ったが平賀は高梨の口を利かない。
栞菜と藤岡の差はあまり変わらないまま第3走者にたすきを渡した。
第3走者は政VS黒沢だ。
黒沢はスピードスケート教室に通っていたのか、妙に走るのが速い。
政はのんびり屋だけど、足は速いはずと思った私は
「女に負けたらあかんでぇー!」
と叫んだ。
さすがの政でも女に負けたくないのか、スピードを出して黒沢を抜かした。
結局は黒沢との大差をつけて次の走者にたすきを渡した。
アンカーは私VS平賀の各グループのリーダー同士の闘いだ。
政が黒沢に大差をつけてくれたから余裕だなと私は思ったが、それは間違いだった。
後ろから平賀が追いかけていたのだ。
「まさかお前が私について来るとはなあ」
「オレはお前なんかに絶対負けられない“因縁のバトル”だからな」
平賀はそう言って私を軽々しく抜かした。
「まあそう言っても良いけど、私だって負けないよ」
私はスピードを出して平賀を抜かそうと思い切りスピードを出す。
「ま、どうせ勝つのはオレだからな」
平賀は後ろを向いて必死に走っている私の顔を嘲笑いながら見る。
私はチラッと前を向いて、今だ!と思った。だから
「さあ、どうかな」
と私はニヤリと白い歯を見せた。
すると、平賀は案の定私の作戦に引っかかったみたいだ。
平賀は後ろを向いて私と喋っていたためにきちんと前を見ていなかったから、カーブするときに壁に頭をぶつけてしまったのだ。
それに対して、私は無事にゴールをした。
レースが終わった2分後、黒沢たちは平賀に近づいて大丈夫ですか?と肩を叩いて意識があるかどうかを確かめる。
高梨は私に「ボスをこんな目に遭わせるとはどういうことだ!?」と怒鳴りつける。
「平賀が前を見なかったのが悪いの。レースは前を向いて真剣に勝負をするのが、本当の勝負と言えるのであって、平賀が後ろを向いて走っていたから、これは本当の決闘じゃない。でも、私たちの勝利だから、クリスマスツリーやICE CASTLEなど、融かしてしまったものを完璧に直すんやで」
私は高梨を上から睨みつける。
「そんなこと、あたしたちが出来ると思っているの?」
藤岡は私たちを睨み返す。
憧君は藤岡の後ろに近づいて
「出来るやろ、このリモコンさえあれば」
と言って、藤岡のポケットからリモコンを取り出し、ど真ん中にある赤いスイッチを強く押した。
外の世界は、ヒートボンバーによって融かされたツリーや城が元の場所、なおかつ元の形に直った。
「貴様ら、今度こそは9次元で決闘して勝たせてもらうぞ!さらば!」
高梨は憧君を指して8次元から姿を消した。
6時、私たちはICE CASTLEに戻った。
「みんな、ありがとう!ツリーがすべて元に戻って嬉しいよ!」
アリスは嬉しそうな顔をする。
「今年のクリスマスも大成功しそうだよ」
ハリーは氷で出来たツリーを見る。
「良かった。それじゃあ、私たちは時間だから元の3次元に帰るね」
私は別れの挨拶をした。
向こうは手を振って私たちを見送った。
6時半、私たちは異次元研究室に戻ってきた。
「お疲れ様。今回の原因物質であるヒートボンバーを八次元カプセルの中に入れてきて」
眞鍋博士は栞菜に言う。
栞菜は手を擦りながらヒートボンバーを8次元カプセルの中に入れた。
8次元カプセルはドライアイスの霧を放って、8次元エネルギーはMAXになった。
「そもそも、還元型メチレンブルーって何?」
憧君は今までずっと知らずにいるようだ。
「普通のメチレンブルーに水素がくっついたヤツで無色。化学式はMbH₂って書くんやで」
生物選択の私は簡単に説明する。
「そうなん。俺は物理選択だから知らんかった」
憧君は初めて還元型メチレンブルーの存在を知った。
「よーし、残るは9次元のたった1つ!」
政は嬉しそうに言う。
「これで異次元制覇だもんね」
栞菜は9次元カプセルをなでるように触る。
「そうやな、最後のひと踏ん張り頑張ろっか」
眞鍋博士は巨大コンピューターから目を離す。
「はい!」
私たちは気合を入れて返事をした。
9次元を制覇すれば、因縁の敵、ギャラクシー・プリズムと闘わなくても良くなるに違いないだろう。