ICE CASTLEの夕食パーティー
11月25日の放課後、そろそろ真冬へと向かっている。
「あー、異次元研究室は暖房が無いんかあ……」
憧君は学ランの上にジャンバーを羽織る。
「でも、入り口付近にストーブはあるで」
私は灯油が満タンに入っているストーブを点ける。
「最初は灯油臭いけどな」
栞菜はストーブに近づく。
「ところで、今回は8次元に行くのですか?」
私はコンピューターをいじっている眞鍋博士に尋ねる。
「そうやね。8次元は氷の世界で、何もかも氷で出来ている」
ストーブのそばで冷えた手を温めていた政たちは巨大コンピューターに寄る。
建物、地面、風呂場まで頑丈な氷で仕上がっている。
「風呂だったら温かいお湯を入れるのに、かけらも溶けないんだね」
政は驚く。
「見てもらったらわかるように、氷と共に生活している。今はクリスマスが近づいているから、町中で氷を削ってクリスマスツリーを作っている」
眞鍋博士はツリーを作っている過程の写真を見せる。
「ところが、出来上がったツリーだけが、一晩で姿を消してしまっている。原因を突き止めて来てほしい」
「了解!」
私たちは敬礼した。
私たちは8次元カプセルの前に立つ。無色の還元型メチレンブルーの液体はかなり減っている。
眞鍋博士は白色のボタンを強く押し、私たちは白色の空間に吸い込まれた。
17時、私たちは8次元に着いた。
「ううっ……ジャンバー1枚じゃ足りない!」
私はビーズ・ネオンにふかふかのロングダウンジャケットとスケートシューズを持ってくるように頼む。
「ちなみに、ここの気温は-15℃」
栞菜は温度計で気温を測る。
「それはさすがに寒いわ」
政は体を擦って温めようとしている。
ここで水莱のレーダーは気が利くことに、ロングジャケットとスケートシューズを4人分用意してくれた。
「気が利くなあ」
私はビーズ・ネオンも成長するんだなと思った。
「イツモノパターンデスカラ」
レーダーは嬉しそうに言う。
私たちはジャンバーの上にロングダウンジャケットを羽織り、さらに運動靴からスケートシューズに履き替えた。
私は久々にスケートシューズを履いたので、滑るのが下手になってしまった。政たちは初心者なので、上手いこと滑ることが出来ない。
「君たち、ここの次元の人にしては滑り方が下手だね」
とある1人の男子高生が私たちに話しかける。
「何様やと思ってるねん!?俺らはなあ、ここの次元の人間じゃないわ!」
憧君はキレる。
「しかも、スピードスケートやフィギュアスケート選手でも何でもない、素人なんだぜ」
政はバランスを取るのに苦労している。
「ここの次元の人じゃないの?」
金髪で青色の目をしている女子高生が言う。
「そう。私たちは8次元を助けるために3次元から来た」
私は上手いことバランスを取る。
「それは悪かった」
最初に喋った男子高生が言う。
「ちなみに、あたしの名前はアリス」
金髪の女の子が言う。見る限りゲルマン民族っぽい。
「僕はハリー」
まだ喋っていない、おとなしそうな男子高生が言う。
「ウチはカレン」
黒髪でパーマを当てているスラブ系のような女子高生。
「最後に、このオレがローナ」
私たちを馬鹿にした男子高生が言った。
私たちの自己紹介が終わると、アリスたちに滑り方を教えてもらった。
18時、私は普通に滑ることが出来るようになり、栞菜たちは少しずつ滑られるようになった。
「ありがとう。滑り方を思い出したよ」
私はお礼を言う。
「1時間もあったら初心者でも滑れるようになるよ」
カレンはふかふかのダウンジャケットのポケットの中に手を突っ込む。
「まあ、大体は……」
栞菜は苦笑いした。
「ところで、君たちは何故8次元に来たんだ?」
ハリーはネックウォーマーを脱ぐ。
「氷でクリスマスツリーを削って出来上がったヤツに限り、一晩で姿を消すと聞いたからな」
憧君は耳を手で温める。
「そうなの。あたしたちは毎年クリスマスを楽しみにしているのに、今年のクリスマスは台無しになってしまいそうなの」
アリスは残念そうな顔をする。
「このままでは直方体の氷を削って出来た、花柄や動物などの飾り物を楽しむだけになってしまいそうでな」
ローナは困った表情を浮かべる。
「幸い、ここの町のクリスマスツリーはまだ残っているけどね」
カレンは10メートルくらいの巨大クリスマスツリーに目をやる。
「なるほど。よしわかった。私たちが原因を突き止めるよ!」
私はガッツポーズをする。
「本当に?!」
ハリーは期待する。
「これまで6つの次元を制覇してきた僕たちに任せて!」
政は気合100パーセントで断言する。
「うん!」
アリスは目を輝かせる。
「そうだ!今日はICE CASTLEで19時半から夕食パーティーがあって、そのあとにパーティーの参加者で寝泊り会もあるの」
カレンはパーティーの招待状を私たちに渡す。
招待状は金色の薄っぺらの紙の真ん中に、銀色で“招待状”と筆で大きく書かれている。
「会場はどこにあるん?」
政は招待状の紙を隅々まで見通す。
「オレたちについて来て」
ローナは一足早く会場へと向かう。
19時20分、私たちはICE CASTLEに着いた。
「意外に遠かったね」
栞菜は広さ100万平方キロメートル、高さ最大250メートルの城の内部を見渡す。
眞鍋博士が言ったように、氷で出来ており、外部も内部も同じ水色で着色されている。
「こういうとこが8次元だなって感じるよね」
私は氷で出来た壁を触る。ひんやりして冷たい。
「普段は宮殿に仕えている人以外は立ち入り禁止だけど、11月下旬からクリスマスまで立ち入りが許されるの」
アリスは奥の方へと歩き続ける。
「ここに集まって、夕食会などが毎日開かれるのさ」
ハリーは興奮し始めた。
「ふーん、そうなんだ」
憧君は何回か頷いた。
会場のディナールームに着いた。周りは参加者で大にぎわい。
多くの大きなテーブル、たくさんの高級な椅子が綺麗に並べられており、1つのテーブルにつき2つの大きなキムチ鍋がある。その周りに具材が並んでいる。
「どれも美味しそうだなあ」
憧君は具材に近づく。
具材をつまみ食いしそうな様子を見た私は憧君の腕を掴んでグイッと通路側に体を起こさせて
「パーティーは、まだ始まっていない」
と私は落ち着いた声で喋る。
憧君は青ざめた顔でじっとする。
「ばれたと思ったやろ」
栞菜はニヤニヤする。
「何で俺がそう思わんなあかんねん?」
「でも、目が引いているから、そう思っていたに違いない!」
政は釘を刺した。
憧君の顔はさらに青ざめた。
19時半、参加者約1000人に囲まれ、夕食会が始まった。
「いただきまーす!」
私たちは早口で言ってしまった。
鍋に牛肉や玉ねぎ、ニンジンなどを次々に入れていく。
ゆで上がった具材を口に運ぶと……
「美味しいけど、からーい!」
私は慌てて冷たい水を飲む。
「まあ、8次元は寒いから、こうして辛いものを食べて体を温めているんだよ」
カレンは一瞬にしてお椀の中に入っている具材を食べてしまった。
「いくら俺でも辛すぎるものは無理だなあ」
憧君は顔を真っ赤にして汗をダラダラとかく。
「こんな時は……」
私は嬉しそうな顔をして、具材に混ざっていた生卵を手に取る。
「そっか、そんな手があったか!」
栞菜も同様に卵を取って割る。
「お前ら、何で生卵を割るんだ?」憧君は政たちの行為に目を留めると「卵を入れたら辛さが控えめになるからだよ」政は卵をかき混ぜる。
「えっ、そうなん?」
「えーっ、知らんかったん?」
私はとき卵プラスキムチ鍋の出汁に牛肉を入れる。
「お、おう」
「恥ずかしいぞ。一般常識だぜ。ま、オレらは卵なんて必要ないけどな」
ローナは憧君を馬鹿にする。
「は?俺を馬鹿にすんじゃねぇぞ」
「泣き虫やなあ」
私は笑いながら涙目になっている憧君の頭をペシッと叩く。
「こんなんで泣くと思ってんのか?」
憧君は必死で言い返す。
「当たり前だろ」
政は笑いが吹きこぼれそうになった。
ハリーたちも一緒に笑った。