記念Tシャツを巡って
10時20分、私、栞菜、政、憧君はそれぞれ帰り道が違うため、私は1人で帰っている。
西側にある正門を出ようとした時に、
「やあ、杉浦、プリントの色は何色だね?」
と式典で口笛を吹いていた平井が私を立ち止まらせる。
平井の近くに私の中学時代の天敵があと3人いた。
「水色だけど」
「おい!オレにくれ!ピンク色と交換しようぜ」
「何でそんな色を選んだん?馬鹿じゃない?最初から水色を頼めばそれで良かったやん!」
私は怒りに満ち溢れる。
「そんなこと言うでない!早く彰にお前の記念Tシャツを渡さぬか!」
藤崎 鈷都音は腕を組んで私に襲いかかろうとする体勢になる。
「じゃあ、そう言う藤崎はどうなん?私に言う前に藤崎が平井に渡せば、それで良かったやろ?」
「いいや、何もわかっていないんだね。これはオイラたちおそろいのピンク。だから、交換したって一緒なんだぜ」
高市 柚記は両手を腰に当てる。
「ははあ、そう言うことか。つまり、オソロってわけか」
私はニヤニヤする。
「そうだ、あらかじめ決めていた。何が悪い!?」
平井は抵抗する。
「せっかくオソロにしたのに水色が良い、って仲間を裏切るつもり?しかも、普通は男女関係無く着れる黄緑や黄色を選ぶやろ」
私は呆れた顔で平井を見る。
「じゃあ、誰がピンクが良いって言ったんよ!」
黒川 玲衣は平井をガン見する。
――Tシャツの文字色を決めた10月10日――
「ちょっと、記念Tシャツの文字色何にする?」
黒川は2年6組の黒板の向かい側にある掲示板に近づいた。
「そうだなあ。あたしは水色が良いかな」
藤崎は水色の文字色に見とれる。
「オイラは黄色やな。黒川は?」
高市は腕を組む。
「アタイは黄緑派」
黒川は高市の方を向く。
「じゃあ、彰は何色が良いねんやろうな」
藤崎はボソッと呟く。
そんな時に平井が黒川の隣に来て、
「オレはピンクが良い!」
といかにも確定したかのように言い切る。
「ピンク?似合ってねぇなあ。他の無難な色にした方がお前にとって良いと思うけどな」
高市は平井の断言に呆れる。
「何だと、オレの意見を否定するとでも言うのか?」
「否定はしないけど、アンタにとって気に入る色が良いと思うで」
藤崎は掲示板にもたれる。
「だから、オレはマジでピンクがええねん!」
平井は藤崎に反発する。
「いつか後悔するときが来ると思うけどな」
黒川は冷静に言う。
「もう、みんな否定するやん。もういい、お前ら、全員ピンクな!」
平井は3人を指す。
「何でオイラがピンク着ないとあかんねん。意味不明やし!」
高市は平井にブチ切れする。
「良いか、オレの命令に背いたヤツは、わざと停学扱いになる悪さをさせるぞ!」
藤崎と高市、黒川は平井の発言に恐れてしまった。
と言うことで、平井たちはオソロのピンクになったのだ。
そんなやり取りを思い出した平井は
「オレだけど……」
と額から冷や汗が流れる。
「馬鹿!今さら水色が良いとかどう言うことよ⁉︎彰がピンクが良いと言って仕方なく賛成したのに何なん?」
藤崎の怒りが爆発した。
「いや、気が変わった……」
「貴様は最低だ!最初から違う色にすれば良かったし!」
高市は平井の学ランを乱暴に掴んで前後に揺さぶる。
はあ、結局は裏切りでもめるのか、と思いながら私はこの場を去った。
でも、私の記念Tシャツを取られなくて済んだと思うと、私は安心感に満たされて家へと向かった。
帰り道、私の去年の大親友の小林 真依と合流した。
「水莱、あいつらに襲われなかった?」
「いや、大丈夫。私がはっきりと思ったことを言ったから」
「なら、安心した」
私と真依は笑いながら駅へと向かった。