闇を灯す火と魔法
10月28日、もうじきハロウィンの日が訪れる。
「博士、先週行ったばかりじゃないですか」
憧君は眞鍋博士に文句を言う。
「まあまあ、12月までには異次元を制覇したいでしょ?そうしたら1月からゆっくり受験対策出来るよ」
眞鍋博士は白衣のポケットに両手を入れる。
「受験なんて嫌です!そもそも、3年になりたくありません!」
憧君はさらにグチを言う。
「じゃあ、留年して退学するんか?」
私は7次元カプセルにもたれる。
7次元エネルギーはだんだん減り続けている。
「それはそれで嫌」
「じゃあ、3年になるしかないな」
政はニヤニヤする。
「てか、2年になってから欠点取ったことあるの?」
栞菜は手を頭に乗せる。
「現文は前期のテストは全部欠点。提出物ゼロ」
憧君は素直に答える。
「アカンやろ」
私は鼻で笑う。
「でも、水莱だって現文40点代ばっかりやん」栞菜は私を指すと憧君は目をガッと開けて「ほら、お前だって点数悪いやんけ」と私を馬鹿にする。
「これが憧君の反論か。でも、欠点よりはずーっとマシだと思うけど?!しかも、提出物は満点やで」
私も目を大きく開ける。
「ちっくしょー……」
憧君は5次元カプセルをドンドン叩く。
「さて、今日は7次元、闇の世界に行って欲しい」
眞鍋博士はいつもの決まり文句を言う。
「闇とか暗そう……」
栞菜は目を覆う。
「そうだ。君たちが思っている以上に暗い」
「6次元の世界と間逆じゃん」
私は真っ青になる。
眞鍋博士は7次元の写真を引っ張る。
「7次元は写真のように暗く、多くの人が赤や青のちょうちんを手に提げて歩いている」
「幽霊が出て来そうですね」
政は腕に鳥肌が立つ。
「このように暗い世界の中で生きているのだが、所によっては眩しい光が目に直撃して動けなくなっている。ひどい人は失明するんだ」
眞鍋博士は眩しい光を捉えた写真を巨大コンピューターに映す。
「これは大変だ!」
私は目を丸くする。
「失明はいくら何でもひどすぎるよ!」
栞菜は手にしている水筒を握りしめる。
「では早速、7次元に行ってくれないか?」
「了解!」
私たちは敬礼した。
眞鍋博士は紫色のボタンを押し、7次元空間が出た。
私たちはその濃い紫色の空間に吸い込まれた。
18時、私たちは7次元に着いた。1次元と同じく周りは洞窟だが、違いは通路のど真ん中にマグマが流れていないことだ。
「いやあ、思ったより暗いねえ」
私は胸につけているビーズ・ネオンの収納ケースを捜す。
「お化け屋敷みたいなちょっとした明かりも存在しないんだね」
栞菜は紫のチェック柄のスカートのポケットからビーズ・ネオンを取り出す。
「レーダー、ウチらのちょうちんを用意して」
栞菜はレーダーに光を求める。
「カシコマリマシタ」
栞菜のレーダーは色違いのちょうちんを赤外線送信した。
「じゃあ、赤は政、青は水莱、緑は憧君、黄色はウチのね」
「勝手に色決められたし」
憧君はうんざりしながら緑のちょうちんを持つ。
「ウチがPRIPAREしたんだから、文句言わないの」
栞菜は憧君に顔を近づける。
「何でわざわざ英語で言うんだ?」
憧君は話をそらせようとする。
「あのな、ちょっとは反省したらどうなんよ?」
私は憧君の耳元で叫ぶ。
「うるせぇなあ!俺の耳が聞こえなくなったらどうせと言うんだ?」
「大げさな。杉浦はそこまでひどいことしないぜ」
政は憧君の肩を軽く叩く。
「そうか?」
憧君は首をかしげた。
「君たち、何か華やかそうだね」
とある男子高生が私たちの目の前で紫色のちょうちんの明かりを点ける。
「うわあ!ちょっとビックリさせないでよ」
栞菜は急な出来事で歩いていた足を止める。
「僕の名はユース。よろしく」
先ほどの男子が自分の名を言う。
「おっ、よっ、よろしく……」
私は恐れながら言葉を出す。
「アタイはスージー」
女子高生がピンクのちょうちんを顔の前で照らす。
「オレはダート」
男子高生は橙のちょうちんのスイッチを押す。
「あたしはムーナ」
同じく女子高生が青緑のちょうちんに火を点けたロウソクを立てる。
私たちの自己紹介が終わると、私は
「暗い世界で生きていけるの?」
と聞く。
「もちろんだよ。アタイたちは光から守るために、こういう占い師みたいな黒い着物を着て生活しているの。裸の電球の光を1秒でも浴びたら体がしびれて、下手すると失明に至るよ」
スージーが困った顔をする。
「普通は有り得ないな」
憧君は頭をかく。
「そうかもしれないけどオレらは光に敏感なんだ。ロウソクは例外であんまり眩しくないから大丈夫なんだ」
ダートはロウソクの炎を眺める。
「よくわかんないけど、最近は眩しい光が入って困っているんだって?」
政は腕を組む。
「その通り。真夜中に眩しい光が窓から差して、体がマヒした人が増えているって大ニュースになっているよ」
ムーナは真剣な顔で言う。
「わかった。ウチたちが眩しい光を食い止めるよ」
栞菜は親指を突き出す。
「本当に?!」
スージーは期待する。
「そのために私たちは7次元に来たんだもの」
私は白い歯を見せびらかす。
「ありがとう!助かっちゃうよ」
ユースはパンプキンを手にした。
「何、そのパンプキン?」政はそれを指すと「そろそろハロウィンだから、準備で忙しいんだ」とユースは答える。
「へえ。まず、眩しい光を何とか抑えるよ」
憧君はズボンのポケットに手を突っ込む。
20時、宿探しの時間が来た。
洞窟のような通路の端にはいくつかのジャック・オ・ランタンがぼんやりとカボチャ色に光っている。
家は壁に穴が掘られており、その先には3メートル程の曲がりくねった通路がある。通路の光が部屋の中に入ってこないようにするためだ。
出入り口の穴の隣には、住んでいる人の名前が壁に彫られている。
「何か、怪しすぎて眠れないね」
栞菜はビクビクする。
「しかも、壁に穴を開けて家を作るなんて……」
私は続きの言葉が出なくなる。
「とりあえず、寝泊り出来たら良いことにしよう」
憧君はシャベルを手にした。
憧君は壁にシャベルを突っ突く。
すると、土砂崩れが起きたかのようにゴツゴツした岩が私たちを襲った。
「ひゃあ。どうやって処理するんだ?」
政は収納ケースからビーズ・ネオンを取り出す。
「ワタクシニ、オマカセクダサイ」
そう言ったレーダーは、一瞬にして中ぐらいの岩を消し去ってしまった。
「さっきまであった岩はどこに行ったの?」
政は尋ねる。
「トウキヤニイキマシタ」
「待って、陶器屋に行って何するん?」
憧君は変に慌てて振り返る。
「そんなことも知らないのか。土をリユーズして、お茶碗などを作るんだぜ」
政は憧君の背中を叩く。
「あっ、なるほど」
憧君は納得した。
私たちは一瞬にして掘った穴に入る。思い切ってシャベルを突っ突いてない割には4人分スッポリと入る大きさになっている。
しかも、出入り口から居間までの距離が3メートルくらいある。
「壁の外側は堅いのに、意外にもろかったとはな」
憧君はレーダーから80ワットの電球を預かる。
「7次元も上手いこと出来ているよな」
私は床を触る。手や服には土が全くついていない。
「そうやな。こういうとこが“さすが異次元”だよな」
政は寝袋を用意する。
栞菜は一息置いて
「じゃあ、そろそろ晩ご飯を食べに行くとするか」
と出入り口に向かった。
20時半、私たちはMAGIC RESTAURANTという飲食店に入った。
店内はミラーボールが回転して壁がキラキラ光っている。でも、私たちが普段見るミラーボールよりは暗い。
「このミラーボールもロウソクの光を浴びているのかな?」
私は回転するミラーボールを見る。
「そうじゃない?じゃないと、この店がつぶれちゃうよ」
栞菜はテーブルの端にある注文表を取り出す。
私はこっくり頷いてメニューを見る。
「このライトメロンジュース美味しそう!」
憧君の目はキラッキラに輝いている。
「こんなジュースは3次元には存在しないしね」
栞菜は光るジュースに興味を持つ。
「じゃあ、それと、お好み焼きにしよう!」
政は店員を呼び出すためのベルを鳴らす。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
若者のウェイトレスが電子注文表をエプロンのポケットから出す。
政は代表として注文を言った。
「かしこまりました」
そう言った店員は台所に向かった。
10分後、光るジュースとお好み焼きがテーブルの上にやって来た。
「意外に早いな」
憧君はお好み焼きとライトメロンジュースを彼の目の前に置く。
「何か、ライトレモンジュースには発光剤が含まれてそうな……」
栞菜はそれをじとっと眺める。
「ゴアンシンクダサイ。ヒカッテイルノハ、スベテマホウノチカラデス」
栞菜のレーダーは収納ケースから喋る。
「魔法かあ。だから店名が“MAGIC RESTAURANT”なんだね」
私は右手にナイフ、左手にフォークを握る。
「いっただきまーす!」
私たちはごちそうの挨拶をし、各自お好み焼きを口に運ぶ。
「あー、美味しい!頬っぺたが落っこちそう!」
私は興奮する。
「光るジュースは普通のジュースと味が変わらないぜ」
憧君は一気にライトメロンジュースを飲み干す。
「それなら、より安心して飲めるね」
栞菜はライトレモンジュースを少し飲む。
「でもお前、あとでのどが渇いたと言っても知らんからな」
政は笑いながら憧君を指す。
「お前がそんなことを言うから、のどが渇いてしまったやんけ」
憧君は笑いながら政を強調して指す。
「まあ、それはドンマイと言うことで」
政はニヤニヤしながら言い返す。
私たちは一斉に涙を流しそうになるまで大爆笑した。
翌日深夜2時。
出入り口から居間までの通路から、とてつもなく明るい蛍光灯の光が私のまぶたを貫通する。
「ああ、眩しいなあ。しかも、出入り口から上手いこと光が入ってこないようになっているはずなんだけどな……」
そう思った私は目をこすって外の様子を見る。
外には、誰かが道を照らすためなのか、大きな懐中電灯らしきものを持って歩いている。
近所の壁に掘られた穴から助けを求める声がする、と言っても普通には話せていない。変に声が震えているのだ。
私は気になって、たった1人で声がした所に向かう。
気づかれないように、こっそり覗くと私はあるものを見てしまった。
(ホンマに全身マヒしてんじゃん)
私は心の中で驚いた。
まさか、そこまで光に敏感だったとは……私はそう思って、元の場所に戻った。