建物侵入後の光景
「何だって、明かりが点かない!?」
私に起こされた栞菜はビーズ・ネオンのライトを使う。
「うん。またもやギャラクシー・プリズムの仕業だと思う」
私は玄関に行って靴を履く。
「朝が来る前に明かりを取り戻さないと、ホテルにクレームが来てしまうよな」
憧君は浴衣姿で部屋の外に出る。
鍵を閉めたあと、私たちはレーダーのライトを頼りに廊下を歩く。
「非常口のライトも消えてるね」
私は非常口に光を向ける。
「本当だ。これはブレーカーが飛んだどころか、停電だよね」
政は首をかしげる。
ホテルから出たあと、街灯は点いていた。が、ホテルのすぐ隣の町外れの街灯は消えていた。
「まあ、電気が点いているだけはマシね」
栞菜は不機嫌になる。ホテル付近の街灯が消えるのを恐れているのだろう。
「うん。ここも暗かったらどうにも出来ないよ」
私はシャンデリアのような街灯を見つめる。
深夜3時半、ホテルの真ん前を突っ立っている私たちに、スポットライトらしきものが顔に当たった。
「何事だ?」
政は微妙に後ろに下がる。
「ははあ、驚いたか」
光源から声が聞こえた。
私たちは誰かに襲われると思って体が震える。
光源から誰かがこっちに向かって歩いてくる。
「まさか、貴様らがこんなことをされただけでビビるとはな」
姿を現したのは6月から髪を赤髪に染めた平賀だった。
「やっぱり髪の毛は赤のままかよ……」
憧君はますます体を震わせる。
「……臆病者!こんなときに体を震わせてどうするんだよ!?これじゃあ6次元を助けられないよ!」
私は憧君の体を揺さぶる。
「お前だってビビってたやんけ!」
憧君は反発する。
「うるさい!榎原ほどビビってないわ!」
私は睡眠不足の目を真っ赤に染める。それ以前に初めて憧君を呼び捨てした自分に驚く。
憧君以外に、栞菜も政も、ギャラクシー・プリズムも皆驚きすぎて何も言えなかった。
「……杉浦が強気になるとは」
高梨は驚きから切り替わらない。
「今回も原因物質を突き止めるぞー!」私は高梨の言葉を無視して拳を挙げ、その声の後に「おーっ!」と栞菜たちも拳を挙げた。
「おいっ、お前ら、どこに行く?」
藤岡は私たちに尋ねる。
しかし、私たちは既にホテル前にはいなかった。
3時45分、私たちは火力発電所に来た。
「大規模な停電になると言うことは、おそらくこの中にあるに違いない」
私たちは発電所の中に侵入した。
私は万が一のために特殊な眼鏡をかけた。
「水莱、どうしたの?」栞菜は不安そうに聞くと「セキュリティーがどこに張られているかを確認するんだよ、この眼鏡で」と私は特殊な眼鏡を左手で強調させる。
「それは大事やな。俺もかけよっと」
憧君はビーズ・ネオンから特殊な眼鏡を受け取る。
特殊な眼鏡のレンズの向こうには、たくさんのレーザーが映る。
私たちはセキュリティーを上手いことかわし、奥へと進む。
奥には、太い銅線をたくさん巻かれてあるコイルと、コイルのすぐそばに強力な磁石がある。
「これで、より多くの電気を発電しているんだね」
政は発電スイッチを押した。
コイルと磁石は素早く動いて、一瞬で多くの電気を発電する。
私は電力計を見ると、思わずパカッと口を開けて
「まったく発電されてないよ。電力計の針がゼロを指している」
と言った。
「やっぱりここに問題があるのか」
政は発電するのを止め、モーターと太いコードの中身を確認する。
「そんな無茶な」
栞菜は政の行動に驚く。
「無茶やけど、それ以外に方法はあるとでも?」
政はさらに銅線の状況を調べる。
4時。
「何じゃ、この黄色いヤツ!」
政の叫び声で私たちは反応してそこに向かう。
それは、1辺が800マイクロメートルの四角錐型の黄色の物体が銅線のあらゆる所に存在している。
私は黄色の物体を指で取って、ビーズ・ネオンに物体名を聞く。
「メイショウハ“プリベントパワー”デス。ハツデンシタデンキヲ、スイトルコウカガアリマス」
「何!発電した電気を吸収するだと!?」
私は2つ、3つ黄色の物体をチマチマと取り除く。
すると、ありとあらゆる銅線からプリベントパワーが宙に集まる。
「見つけたか。原因物質を」
黒沢は腕を組んでモーターに近づく。
「やっぱりコイツのせいだったのか」
栞菜は1つになったプリベントパワーを手に取る。1辺が約8センチの大きさだ。
「どうするんだ?ここでバトルをするのも良いけど、狭いぞ」
政は首を回す。
「……」平賀は黙り込んでから「仕方ない。そろそろ夜が明けるから、今回は見逃してやろう」と言う。
「ボス、そんなことをしても良いと言うのですか?」
藤岡は目を大きく開く。
「そうですよ、諦めきれません」
黒沢は藤岡の肩を持つ。
「お前らな、そんなこと言うけど、警察に捕まって裁判されたら面倒なことになるぞ」
平賀は目を細めて藤岡たちを睨む。
「確かに……」
黒沢はうつむく。
ギャラクシー・プリズムが油断している間に
「いっけー!」
と憧君はギャラクシー・プリズムに銅線を結びつけて、電気を流した。
電気を浴びた後、
「……油断するんじゃなかった。次会ったときはバトルな。覚えとけー!」
と平賀は叫びながら姿を消した。
発電所から出て、ホテルに戻ると、綺麗なイルミネーションがキラキラ輝いているのを見つける。
「来たときは夕方だったからわからなかったね」
栞菜は目を輝かせながらイルミネーションを眺める。
イルミネーションはパンプキンに紫色の帽子、箒に乗った魔女、黒猫が光によって派手に表現されている。
「上手に表現されているね」
私はビーズ・ネオンのカメラ機能で写真を撮る。
向こうからミラたちが駆けつけてきた。
「光を取り戻してくれてありがとう。これで普段の生活が出来るよ」
ツラは笑顔で私たちの荷物を運ぶ。
「うん。でも、荷物は部屋の中に入れていたのだけど……」
私はポケットに手を突っ込んだが鍵が見つからない。
「へへっ、これは僕の魔法で鍵を呼び寄せたんだよ」
ノリは胸から水晶玉を取り出す。しかも、ハンドパワーで宙に浮いている。
「すごいなあ」
私は笑った。
「と言うことで、僕らは時間だから、元の世界に帰るね」
政はキリたちに手を振って別れの合図を送る。
私たちも手を振ったあと、キリたちも両手で大きく手を左右に動かした。
4時半、私たちは研究室に戻った。
「お疲れ様、手に入れたプリベントパワーを6次元カプセルに入れて」
眞鍋博士は私たちの方に向く。
私は黙ってプリベントパワーを6次元カプセルに入れた。
カプセルは、眩しい黄色の光を放った。
その後、6次元エネルギーはMAXになった。
「もしかして、この液体はBTB溶液で黄色に染めているでしょう」
政はニヒヒと笑う。
「よくわかったね。これはBTB溶液に酢酸を混ぜて出来ているんだよ」
「ふたを開けたら研究室内の臭いが最悪だね」
栞菜は苦笑いする。
「それにしても、ノリが手にしていた水晶で魔法をかけるとかすごいよね」
私は後ろを振り返った。
「ホンマに。何か、こうやって魔法をかけているとか」
憧君は笑いながら占い師みたいに両手を構える。
「それはお笑い芸人級や」
栞菜は大笑いして、研究室の空気はいつものようににぎやかになった。