62.念願の領地へ
念願の夏季休暇に入った。
ロイス伯爵を上手く説得して、クラウディアを我がランドルフ領へ連れて行く許可を得た。
共に連れて行く使用人は四人で済んだ。でも正直、領地にも我が家のベテラン使用人がいるのだから一人でもいいくらいなのだ。だが、ここは黙って了承。
さらに、領地までに立ち寄る宿は、クラウディアの体に負担がかからないように高級宿を指定された。
これは僕としても完全に同意。言われなくてもそうする予定だ。普段なら身分を隠して適当な宿に泊まっているのだが、彼女にそんなことはさせられない。
そうして今、無事に行きの馬車の中、クラウディアと二人で揺られている。
ディアは朝から興奮状態だ。
徐々に王都から離れ、窓からの眺めが見慣れない景色に変わって行く様を、目を輝かせながら見ている。
五日の行程の予定だけど、今日一日でバテてしまわないか心配してしまうほどだ。
「大丈夫? ディア。そんなにはしゃいでると疲れちゃうよ? 領地までまだまだあるから。疲れたらすぐに僕に寄っかかって眠っていいからね」
「はい! でも、興奮するなって無理ですわ! だって初めてですのよ? ランドルフ公爵領に行くなんて!!」
クラウディアははち切れんばかりの笑顔を見せる。
「だって、私、以前まで一生行けないと思っていましたら!」
そうか、彼女は彼女でそう思っていたんだ。僕に捨てられるかもしれないって。
本当に二人して無駄な心配をしていたな。
「それとね、カイル様。私、カイル様がこの長い道中、飽きないようにいろいろな物を用意してきましたのよ!」
クラウディアはニコニコと笑いながら足元のカバンを持ち上げた。
「まずは定番のトランプ。それ以外にも知恵の輪。それからこの輪っかになっている長い紐は『あやとり』と言うものです。教えて差し上げますわ。それと、これは自作のカードゲームです! 『UN●』といって、修学旅行には必須アイテムなんですのよ!」
ディアはバックからいろいろな物を取り出して見せた。
その内の自作のカードというのはとてもカラフルな色が塗ってある。
「前世で遊んだカードなんです! 急に思い出して、夜なべして作ってみましたの! 自信作ですわ!」
夜なべって!
「でも、これは二人以上でないと盛り上がらないので、お宿に着いたら他の人も誘ってやりましょうね!」
他の人って・・・、宿のどこで? まさか君の部屋って訳じゃないよね? 言っとくけど自分のメイドしか入れちゃダメだからね!
「あとはですね~」
彼女のバックから、いろいろな物が次から次へと出てくる。
紙で作った手製のオセロや、手製のチェス。
そして、なにやら大きな紙を蛇腹状に折り畳み、一方を紐で固く縛ってある若干扇にも見える物を取り出した。これは?
「これはハリセンと言って、この扇状の部分で人の頭を叩くものです」
「・・・頭を叩くって・・・」
「もちろん、痛くないですわ!」
「そうだろうね・・・」
「ジャンケンゲームで使おうと思いまして! ほら、負けた場合、こちらで頭を防御するのです。厨房から借りてきましたわ!」
頭がすっぽり入りそうな大きなボールが・・・。
車内に持ち込むには大きなカバンだなと思っていたけど・・・。
こんなにいろんなものが入っていたんだね・・・。本当に君の発想は豊かで驚くよ。
人の頭を叩くって、淑女としては間違っていると思うけど。まあ、ゲームだものね。
このゲームは僕以外としてはいけないように後でそれとなく忠告しよう。
それにしても僕のために―――自分のためでもあるんだろうけど―――こんなにもいろいろ用意てくれたなんて。
「ありがとう、ディア」
「ふふふ。こちらこそですわ! 私、今とっても楽しくて、本当に幸せですわ!」
満面の笑みで僕を見つめる。
抱きしめたい衝動に駆られて、彼女に両手を伸ばした。
「さあ! 早速トランプしましょ! カイル様!」
僕の顔の前に差し出されたトランプによってそれは阻止された。




