53.媚薬と睡眠薬
「ごめんなさい! 薬を・・・、薬を入れたの! 紅茶に・・・!」
セシリアは震えながら白状した。
「へえ? どんな薬? 正確に教えて?」
「媚薬・・・、媚薬です・・・。それと、睡眠薬・・・」
「睡眠薬は僕に?」
彼女は首を横に振った。
「睡眠薬はアーネスト様に入れたはずだったのに・・・」
それを聞いて、僕はアーネストの頭をさらに引き寄せると、首の後ろに手刀打ちを与えた。
一瞬にして気を失った彼の首根っこを掴むと、そのまま床に放り投げた。
「さて、ロワール嬢。君は今どれだけのことを仕出かしたか理解できている?」
無様に転がっている会長をセシリアは震えながら見つめていたが、僕に声を掛けられてハッとしたように居住まいを正した。
胸元を抑えながらソファに座り直すと、新たな涙を流しながら縋るように僕を見上げた。
「わ、私は・・・、私は・・・」
「うん。君は悪意を持って善良な生徒二人に薬を盛ったんだよ? これは立派な犯罪だよね?」
「悪意なんて酷い! 悪意なんてありません!」
「それはないでしょ。薬を盛るなんて行為、悪意がなければできないよ」
「違います! 私はカイル様に振り向いて欲しくて・・・」
「それで僕に媚薬を飲ませようとしたんでしょ? そして既成事実を作って僕を貶めようとしたんだ。これは悪意以外の何物でもないでしょう?」
「そ、そんな・・・」
「事が終わった頃に、睡眠薬を飲んだ会長が目を覚まして目撃者にでもなってくれれば、彼も自分のことを諦めるし、一石二鳥だってところだったのかな?」
「・・・」
「そこまで計画的だったのに悪意がないって、それはちょっと厳しいなあ」
僕は大げさに肩を竦めて頭を振って見せた。
「カイル様・・・、私、本当にカイル様をお慕いしているんです・・・」
「慕っている相手なら薬を盛っていいなんて言う理屈はないよね?」
「でも、でも・・・」
彼女は弱々しくソファから立ち上がると、乱れたブラウスを胸元で合わせたまま、僕の方に近寄ってきた。
そして涙を溜めた瞳で僕を見上げ、
「こんな形になってごめんなさい・・・。でも、心からお慕いしているんです・・・。それだけは本当なんです・・・」
そう言って、僕の胸に身を預けてきた。
「ねえ、ロワール嬢。もし仮に君の計画通り、僕が媚薬を飲んで君と情を交わしたとしても、僕は決して責任は取らないよ」
「な・・・?」
セシリアは驚いたように顔を上げた。
「僕は君が思っているような紳士ではないんだ」
にっこりと僕は彼女に微笑んで見せた。
「さらに、君が僕との情事を吹聴しようとしたとしても、それを握り潰すだけの権力も財力も僕は持っている。言っていることは分かるかな?」
僕は彼女の耳元に口を寄せて囁いた。
「消すのは簡単だ。噂も・・・家もね」
そしてそっと彼女から離れた。
彼女は真っ青なまま固まっていた。
「つまり、僕と情を交わすことは君にとって命取りだという事を覚えておいた方がいい。あ、でも、もう遅いかな。この僕に薬を盛ったのは事実だし」
「で、でも・・・、カイル様は飲んでない・・・」
「だから何? 僕はたまたま君の悪意に気が付いて紅茶に手を付けなかったから被害に遭わなかっただけ。僕が飲むはずだった紅茶に睡眠薬が入れられたのは事実だ」
「・・・」
「そして、この伯爵令息に至っては飲んでしまった結果、ここにこうして伸びてるんだ」
相変わらず床にぶっ倒れたままの生徒会長を親指で指した。
「こんな犯罪めいた事をしたのだからね。それなりの処分は免れないよ」
「カイル様! 許してください!!」
「今日のところはもう帰りたまえ。廊下に出る前に身なりを整える事を忘れずに。ここの後片付けは僕がする。大切な証拠だからね」
「カイル様!! どうかお慈悲を!」
セシリアは僕の前に跪いて懇願してきた。
「ごめんね。僕は情が薄いんだ」
「カイル様、お願・・・」
「ロワール嬢、これ以上僕を怒らせない方が身のためだ」
僕は彼女の言葉をピシャリと遮った。
「何度も忠告したはずなのに、懲りもせず愚行を繰り返した結果だ。甘んじて罰を受けるがいい」
セシリアはガックリと肩を落として、シクシク泣きだした。
しかし、悲し気に泣いている自分に僕が声を掛ける気配が無いと分かると、今度こそ本当に絶望した目で僕を見つめた。
僕から返ってきた視線に、本当にダメだと気が付いたらしい。
やっと立ち上がると、ゆっくり服装を直し、項垂れたまま生徒会室から出て行った。




