52.ティータイム
生徒会室へ入ってきたセシリアは、ワゴンを置くとパタパタっとアーネストの傍に駆け寄った。
「お疲れ様です、アーネスト様。全員揃っていないですけど、冷める前にお茶をお入れしますね」
そう言って可愛らしく首を傾げた。
「セシリア、今日はもう誰も来ないよ。みんな予定があって。そう言ったじゃないか」
アーネストは小さい声でセシリアに話しかけた。
あー、そうか。さっきの舌打ちはこのせいか。僕が来なければ二人きりになれたはずなのに、お邪魔虫が来たせいでお怒りだったわけだ。
ビンセントもアンドレも来ないことは伝わっていたから、殿下側近の僕もてっきり来ないと思っていたのだろう。
「じゃあ、折角なので三人でお茶しましょう! 今日の焼き菓子はマドレーヌですよ!」
セシリアはアーネストの意を介さず、にこやかに笑うと、早速お茶の準備を始めた。
手際よくお茶を淹れ、僕の前のテーブルに焼き菓子とティーカップを並べると、
「さあ、アーネスト様もこっちでお茶しましょうよ!」
アーネストに向かって手招きした。
だが、彼は渋った顔のまま、席から立ち上がらない。
僕と一緒に仲良く三人という構図が気に入らないようだ。その点は気が合う。
セシリアはアーネストの傍に行くと、両手で彼の腕を取り、無理やり立たせた。
「ね? アーネスト様」
可愛らしく首を傾げてそう乞われるとアーネストは何も言えなくなり、渋々立ち上がってこちらにやって来た。
セシリアと並んで僕の前に座る。そして、ムスッとした顔で紅茶をグイっと飲んだ。
「お菓子もどうぞ、アーネスト様。お好きでしょう? マドレーヌ」
セシリアはマドレーヌを取ると、彼に差し出した。その態度に彼は気分が良くなったようだ。素直に受け取ってモグモグと頬張った。
「セシリアのお菓子は本当に美味しいよ。プロ並みだね!」
「ふふふ。ありがとうございます。アーネスト様」
そんな会話と僕は半目で見ながら、紅茶を口にした。
★
暫くすると、アーネストの息遣いが荒くなってきた。
ハアハアと苦しそうに息をしている。
首元に手を当て、ネクタイを緩めると乱暴にシャツのボタンを外す。
「え・・・?」
セシリアは驚いたように彼を見ている。そして、僕の方を見た。
僕はソファに深く沈み込み、目を閉じていた。
「う、嘘! 何で? 逆なはずなのに! どうして、カイル様が睡眠薬を・・・、きゃあ! ちょっと! 待ってください! アーネスト様!」
セシリアが慌てている声と、さらに荒くなったアーネストの息遣いが聞こえる。
そして、人が押し倒されたのかソファが軋む音が聞こえた。
「セシリア・・・、セシー・・・」
「やめて! 止めてください! アーネスト様っ! カ、カイル様ぁ! 助けて! 目を覚ましてぇぇ!」
必死に抵抗して、泣き叫ぶ声が部屋中に響き渡る。
僕は目を開けて彼女を見た。
彼女はそんな僕を驚いたように目を見開いて見つめた。
自分から大声で叫んで助けを求めた割には、目を覚ました僕に心底驚いたようだ。
それは驚くだろう。本来なら目が覚めないはずの僕が目を覚ましたのだ。
目を覚まさない理由は彼女がよく分かっているはず。
立ち上がった僕を見て、彼女は安堵の顔に変わった。
「カイル様! 助けて! アーネスト様が」
セシリアは自分に馬乗りになり愛撫する会長に必死に抵抗ながら、僕に助けを求めてきた。
「どうして? 自分でそうなるように望んだ結果じゃないの? 相手は違ったようだけど」
僕は冷ややかに絡んでいる二人を見下ろした。
「そ、そんな・・・」
彼女の目が見る見る絶望に変わった。
「お邪魔なようだから僕は失礼するね。あ、そうだ。人に見られたら困るだろう? 部屋には外から鍵を掛けておくよ。じゃあ、二人で楽しんで」
「お願いっ! 助けてぇ! カイル様ぁ!!」
泣きながら金切り声を上げるセシリアを僕は苛立ちを込めて睨みつけた。
小さく舌打ちをすると、二人の傍に行き、アーネストの髪を掴むとグイっと引っ張った。
「クッ・・・!」
のけ反ったアーネストが苦しそうにうめき声を上げた。
彼は完全にやられていようだ。
息は荒れ、目は血走っている。
髪の毛を掴まれながらも、必死にセシリアを求めている。
セシリアはアーネストから離され、急いで開けた自分のブラウスを直すように胸元を隠した。
身体がカタカタと小刻みに震えているが、ちっとも可哀そうと思わない。
「ロワール嬢。助けてもいいが、この状況を説明してくれるかな? 何で会長は突然発情し始めたの?」
セシリアは真っ青になったまま何も言わない。
「どう見てもおかしいよね? この状況は」
「・・・」
睨みつける僕にセシリアは口をギュッと噛み締めダンマリを続ける。
「そうか。じゃあ、仕方がない。邪魔したね。後はお二人でよろしくやってくれ」
僕はアーネストの髪を掴んでいる手を少し緩めた。
途端に彼はセシリアに襲い掛かろうとする。
「ま、待って!!」
僕はもう一度彼の髪をギュッと掴み、引き寄せた。
「僕はタダで人助けするほどお人好しじゃないんだ。ましてや、自分自身も被害に遭いかけたって言うのにさ」
「ごめんなさい! 薬を・・・、薬を入れたの! 紅茶に・・・!」




