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51.会長とヒロイン

武道大会での僕ら熱い抱擁の一件は学院中の話題を攫った。

その前にあった聖堂前でのビンセントの茶番劇―――もとい、リーリエ嬢への愛の告白よりもセンセーショナルな話題だったらしい。


まあ、僕としては二人の間に誰も入れる余地がないほど、僕らの絆が確固たるものだと周りに知らしめることができて満足なのだが、クラウディアの貞淑さが疑われるようなことは許されない。

クラウディアを妬む子女達から、彼女の軽率な行動を悪く言う輩がいてもおかしくは無い。少しでも変な噂が立とうものならすぐに揉み消すつもりで、目も耳も研ぎ澄ましていたが、僕の今までの溺愛ぶりが功を奏し、懸念は杞憂に終わった。

誰も公爵家を敵に回したくないようだ。そりゃそうだよね。


「殿下に花を持たせても良かったのではないですか? カイル様。しっかり優勝を勝ち取るなんて・・・」


回廊を並んで歩くアンドレがブチブチと小言を言ってくる。

彼は剣術で3位と健闘した。だが、優等生の彼は三番目と言うのは屈辱のようだ。


「剣術は騎士コースでは花形種目だからね。凄腕ばかりが出場する中で3位なんて大したものじゃないか。しかも一年生で。拗ねて僕に当たるのは止めておくれ」


僕はワザとらしく大げさに肩を竦めて見せた。


「そう言えば、セシリア嬢はカイル様が剣術の試合に出ると決め込んで会場に乗り込んでましたけど、彼女の周りにだけ情報操作でもしたのですか?」


「さあね。僕は何もしてないよ」


「カイル様を必死に探していたようですが、結局、生徒会長に捕まっていましたよ。試合直前、会場で声高らかに『君に勝利を捧げる』と叫んでいました。まあ、その試合で私と当たったんで、メッタメタにしてやりましたけど」


「あはは、それはお気の毒」


着々と会長とヒロインの距離が縮まってきているようだ。いいことだ。





僕がいつまでも振り向かないからなのか、とうとう生徒会長の猛アタックに観念したのか、ヒロインは会長―――アーネスト・ロンド伯爵令息とよく一緒にいるようになった。


二人の仲が睦まじいことは結構なことだ。心から応援する。

だが、ここで新たな問題が発生した。


二人の仲が良くなったことで、セシリアがまた生徒会室に頻繁に出入りすることになったのだ。


生徒会室に来たところで仕事を手伝うわけでもなく、アーネストの席の隣に椅子を持ち込み、ペチャクチャとお喋りを楽しんでいる。

前のように、僕の傍に来ることは無い。だが、これ見よがしに仲良く喋っているように見えるのはきっと僕の自惚れではないと思う。


アンドレも眉を顰めている。

彼は僕の心配ではなく、ビンセントの心配をしているのだけどね。

用心していたが、僕にもビンセントにも色目を使ってくることは無かった。


暫くして、会長室に入り浸ることが日常化してくると、セシリアは生徒会会員に手作り菓子を振舞うようになった。更には一緒に紅茶も入れてくるようになった。

そのタイミングで、皆で一休みするという習慣が出来上がってしまった。


もちろん、ビンセントに一生徒が作った菓子を食べさせることなど有り得ない。

いつも密かに、僕とビンセントの分はアンドレが没収していた

紅茶もアンドレ、そして僕が口を付けた後でなければ、ビンセントには飲ませなかった。


そんなある日のこと。


その日、ビンセントは私用で早めに帰城していた。

アンドレは最近、父君の補佐の仕事が忙しく登校していない。

僕は一人で生徒会室に向かった。


内心では、二人もいないことだし、サボっちゃおうかな~などと考えており、クラウディアを図書塔に待たせていた。

ただ、少し気になる資料があったので、それだけちょっと目を通してから、すぐに切り上げようと思っていたのだ。


会長室を開けると、そこにはアーネストだけが会長席に座っていた。

他のメンバーはまだ来ていない。


軽く挨拶すると、アーネストは会釈を返してきたが、チッと舌打ちしたのを僕は聞き逃さなかった。


君ね、この学院内だからその態度でも許されるけど、一歩でも外に出たら僕の方がどれだけ立場が上か分かってる? その態度、いつか後悔させてあげるから、覚えておいてね。


イラっとしながらもそれに気が付かないふりをして資料を棚から取出し、生徒会席前に設置している応接セットのソファに座った。

資料を広げたその時、扉が開いた。


「あら? 今日はまだ二人しかいないのですね」


ティーセットのワゴンを引いたセシリアがにっこりと微笑みながら入ってきた。


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