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48.神に捧げる花

「おかしいな。その花は実りの神に捧げる花のはずなんだけど・・・。なんでまだ君の元にあるのかな?」


「え・・・?」


僕は顎に手を添えて首を捻った。


「その花には生徒一人一人の神への感謝の思いが込められている、とても大切な花だ。それを代表として受け取って祭壇に供える事が、君の扮した『実りの女神』役目だったはずだけど・・・」


「えっと・・・、それは・・・」


「僕の解釈は間違っているのかな? ねえ、アンドレ?」


「いいえ。間違ってはおりません。生徒の花を代理で祭壇に捧げるのが『実りの女神』の仕事であり、使命です」


アンドレが僕らを囲んでいるギャラリーから一歩前に進み出た。


「ぶっちゃけ、誰に託したってよかったんだよね?」


「言い方は雑ですが、そういう事です」


「な、な・・・」


セシリアはワナワナ震えだした。


「残念だよ、ロワール嬢。僕はその一輪の花に、神への今年の豊作の感謝と、来年の豊作、この国の益々の繁栄、そして国民の健康と幸福などの願いを込めていたんだ。それを無碍にされてしまったなんて・・・」


僕は悲し気に胸とこめかみを押さえ、軽く頭を振った。

たった一輪に詰め込み過ぎですというアンドレの小声が聞こえた気がするが無視。


「他の14人の女神が受け取った花はすべて願いと共に祭壇へ捧げられたというのに、僕の花だけ軽んじられてしまったのか・・・」


「そんな・・・、そういうわけでは・・・」


「ちょっとした手違いで君に託したのだけど、それでも僕の花をちゃんと祭壇に捧げてくれると信じていたのに・・・。本当に残念だ、ロワール嬢・・・」


僕は大げさに片手で口元を覆い、嗚咽を抑えるふりをして顔を横に背けた。


「カ、カイル様! そんな! 元気を出して下さい!」


クラウディアの方が僕の大根演技を真に受けて、腕にしがみ付いてきた。


「カイル様! 祭壇はまだありますわ! 今からでも遅くはないですわよ! セシリア様、そのお花をお供えしましょう! 私も一緒に参りますわ!」


「「え?」」


僕もセシリアも驚いた。


「ああっ! でも、セシリア様は先にドレスの汚れを落とさないといけませんわね! じゃあ、私が一っ走り、祭壇に行ってきますわ! 私も『実りの女神』ですもの、代わりに捧げて参ります! カイル様、ご安心なさいませ!」


「あ、いや、ディア・・・、そこまでしなくても・・・」


鼻息荒くガッツポーズをして見せるクラウディアに困惑していると、


「そうですわね。一輪たりとも粗末にしてはなりませんし、私欲で自分のものにするなんてあってはなりませんわね」


凛とした美しい声が背後から聞こえた。

リーリエ嬢が扇で口元を隠し、ゆっくりとこちらへやって来た。


「私がクラウディア様と一緒に祭壇へ参ります。セシリア様、どうぞ花をこちらへ」


リーリエ嬢が優雅にセシリアに向かって手を差し出した。

こうなってはもう逃げられないと悟ったのか、セシリアは震える手で耳から花を外し、リーリエ嬢に手渡した。


「さあ、クラウディア様。参りましょう」


「はいっ! リーリエ様!」


二人は仲良く並んで人集りを抜けて行ってしまった。


ポツンと残された僕ら。

シーンとしているギャラリー。


あれ? なんか僕ら格好悪くない?

ま、いいか。


僕はコホンっとわざとらしく咳をすると、セシリアに向き合った。


「今の件とは別に、君のドレスをクラウディアが汚してしまったことは僕からも謝るよ。本当に申し訳ないことをした」


まだ呆然としているセシリアは無言で僕を見た。


「婚約者の失態は僕の失態でもある。君のドレスは僕が弁償させてもらうよ。とは言っても、代わりのドレスを贈るという事は出来ない。なので領収書を我が家に回してくれたまえ」


僕はそう言うと周りの人集りに向かって声を掛けた。


「どなたか心あるご令嬢、ロワール嬢を化粧室へお連れ願えないだろうか?」


数人の令嬢がセシリアの元に来てくれた。

その中にアイリーン嬢もいたが、セシリアの元に行く前に、アンドレに腕を掴まれて阻止された。彼女に向かって軽く首を振る。関わるなと暗に伝え、アイリーン嬢も素直にそれに従った。


セシリアが会場から消えた後、アンドレが僕に近づきそっと囁いた。


「飲み物を持ってクラウディア嬢に近づくとは、怪しいですね」


「まあ、十中八九、彼女がクラウディアに飲み物をぶっかける気でいたんだろうね。もしくは下剤でも入れたか」


「私は後者かと・・・」


「僕は前者と思う。薬を盛るまでの脳はなさそうだし。でも、成分は調べるに越したことないな」


「そうしましょう」


まったく、とんだイベントになった。


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