41.実りの女神
夏が過ぎ、季節は秋になった。
さて、もうすぐ我がクラウン学院の学院祭が催される。
それ向けては専門準備委員の生徒たちがメインで頑張って働いているけれど、僕らも生徒会員として準備に明け暮れている。
そして、この学院祭も僕の魔の行事の一つになるわけだ。
クラウディアから聞いた話だと、ここで僕がやらかす失態は、祭り最後の舞踏会でファーストダンスをヒロインに申し込むことだ。
しかし、それは現実の僕ではあり得ないことなので、あまり心配していない。
それに、流石のセシリアも今の僕との関係性で、自分がダンスを申し込まれるなどとは思ってもいないだろう。
なので、それ以外のところで何か仕掛けてこないか・・・。そこが気がかりだ。と言うより、面倒だ。
秋は正に実りの季節。
その季節に相応しく、学院祭も収穫に感謝の思いを込めた催しになっている。
その最たるものが、「実りの女神」のパレードだ。
実りの女神は一年生で九月生まれのご令嬢。
彼女たちに「実りの女神に」扮してもらい、美しく飾った屋根なしの馬車に乗り、(無駄に)広い学院内の敷地をパレードするのだ。
女神は周りの生徒たちに向かってフラワーシャワーを浴びせながら進んで行く。
生徒たちはそんな女神たちに一輪の花を捧げる。女神たちは受け取ったその花々を生徒代表として、最終的に祭壇に捧げるのだ。
この実りの女神に圧倒的に相応しい令嬢が九月生まれにいた。
リーリエ嬢だ。
ビンセントは学院祭の数日前からソワソワして落ち着かない。
「リーリエの『実りの女神』の姿はどれだけ美しいだろう! きっと想像以上なはずだ! 彼女こそ女神に相応しいよ! ああ! 今から楽しみで仕方がない!」
ずっとこの言葉を繰り返している。
分かったからビンセント、仕事して。予算の書類にサッサと目を通して。
珍しくポンコツになっているビンセントに、さりげなく注意をするとハッと我に返り、すぐ書類に向かう。
僕も気持ちは分からなくはない。
なぜなら、僕のクラウディアも九月生まれなのだ。
よって、彼女も「実りの女神」。
ああ、僕の女神! 絶対、誰よりも可愛いはずだ!
内心、僕もビンセントと同じ気持ちを抱えながら、ウキウキと仕事をしていたわけで。
だが、一抹の不安もある。
それは、かのヒロインも九月生まれということだ。
★
学院祭の当日。
見事なまでの秋晴れだ。青い空が清々しく気持ちがいい。
今日一番のメインイベントの「実りの女神のパレード」は学院内の聖堂から始まる。
聖堂の前で美しく飾り立てられた馬車が数台待機し、御者は乗馬クラブの生徒達が担当する。彼らにとっても注目を浴びる晴れ舞台だ。緊張した面持ちで、聖堂から出てくる女神たちを待ち受けている。
僕らは聖堂に一番近い場所を陣取り、女神たちの登場を待っていた。
聖堂の重い扉が開かれた。
ワァーと言う歓声と共に、中から美しく着飾った令嬢たちが15人ほど出てきた。
花で出来た冠を被り、柔らかで優しい風合いのドレスにたくさんの花々が飾られ、まる妖精のようだ。
歓声と拍手の中を、リーリエ嬢を先頭にゆっくりと聖堂の階段を降りてくる。
彼女たちの中でもリーリエ嬢の美しさは際立っていた。
僕はチラリと横に並ぶビンセントを見た。
彼の目はリーリエ嬢に釘付けだった。頬を赤らめ目を輝かせている様子は、改めて恋に落ちた青年の顔だ。
僕は若干呆れながら、女神たちに視線を戻す。
だが、次の瞬間、ビンセントを小馬鹿にした自分を大いに反省した。
列の一番後ろを、小柄ながらも誇らしげに歩く僕の天使が目に入ったのだ。
今の僕は、ビンセントと全く同じ表情をしているに違いない。
他のすべての人々が霞んで見えた。彼女しか目に入らない。彼女だけに光が当たっている様に見える。
僕の天使はなんて可愛いんだ!
ポケーっと見惚れていると、
「美しいですわね、皆さま! リーリエ様は本当に女神のよう! クラウディア様も妖精のように可愛らしいですわ!」
アンドレの隣にいるアイリーン嬢の弾けるような言葉に、僕もビンセントも我に返った。
「・・・殿下もカイル様も、口が半開きになってますよ・・・」
アンドレに小声で注意され、僕らはすぐに顔を引き締めた。
女神たちは御者の生徒にエスコートされながら、五人ずつ一台の馬車に乗り込んだ。
無事に馬車に乗ったのを確認すると、代表の御者が聖堂に向かって大きく手を挙げた。
それを合図に聖堂の鐘が鳴る。
さあ、パレードの始まりだ。




