37.念には念を
「消しちゃおうかなって・・・。貴方が言うと洒落にならないですから」
アンドレは呆れたように僕を見た。
「無駄なお家取り潰しは止めてくださいよ? カイル様」
「分かってるよ~。だから今、ロワール家に荒がないか探してる最中なんだよね~」
僕は伸びをした両手を頭の後ろで組んで天井を見上げた。
「でもさ~、今のところ、何も後ろ暗いことが無いんだ。小さな領地だけど、なかなか栄えていて領民との仲も良好だし。かと言って、荒稼ぎして税を誤魔化している様子も無い」
僕ははぁ~と溜息をついた。
「男爵本人の人柄も調べたよ。妾がいるくらいだから女癖が悪い奴なのかと思えば、それがそうでもない」
女にだらしない輩は問題児が多いからね。そこも確認してみたのだけれど。
「それどころか、セシリアの母親が本命。本来ならその人と結婚するはずのところを引き裂かれたらしい。それでも別れずに後生大事に市井で囲っていたわけだ。出来る限り不自由させないように大切にね」
「一途で情に厚い方のようですね」
「まあ、褒められることかどうかは別として、悪人ではないことは確かだよね」
「つまり、叩いても塵は出てこないと?」
「うん。今のところは・・・ね」
「・・・先ほども言いましたが、無意味なお家取り潰しは止めてくださいよ? カイル様」
・・・。
だよね、やっぱり。
「まあ、次にクラウディアに何か言いがかりをつけてくるようであれば、我が家から男爵家宛に抗議文でも出すよ」
「それだけでも十分でしょう。公爵家から抗議文など一大事でしょうから」
「後は学院の行事を見直そう・・・」
「学院の行事をですか?」
アンドレはちょっと驚いたように目を丸めた。
「まあ、ちょっとね・・・」
クラウディアから得た貴重な情報。
僕が起こすであろう愚行が数々待ち受けている魔の行事。
現実の僕は絶対にそんな愚劣な行為はしないけど。
「念には念を・・・ってとこかな・・・」
小さく呟くように言う僕に、アンドレは軽く溜息を付いた。
「そうですか・・・。まあ、行事を見直すのも結構ですが、それよりも、彼女に生徒会副メンバーから追い出す方法を考えましょう」
ああ、確かにそうだね。
★
花園での出来事から、セシリアは生徒会室に顔を出さなくなった。
この事に焦っているのは生徒会長唯一人。
それ以外の人物は、返って清々しく仕事をしている。
「驚きましたね。彼女にも羞恥心があったということでしょうか?」
アンドレが拍子抜けしたように僕に話しかけてきた。
「いや、どうだろうね」
「・・・違うのですか?」
怪訝な顔のアンドレに対し、僕は呆れたように肩を窄めて見せた。
なぜなら、彼女は戦法を変えただけだからだ。
僕に話しかけることは無くなったが、視界に入り込むことは前よりも多くなった。
視界に入り込むが、顔を合わせない。
目が合えば、ワザとらしくそっぽを向いたり、信者である男子生徒―――数は減ったけど―――とこれ見よがしに仲良くしたりする姿を僕に見せつける。
もちろん僕はすべてスルーしているのだが、彼女はそれが気に入らないらしい。
諦めることなく、必死にアピールしてくるのが目にうるさくて仕方がない。
「押してダメなら引いてみろってことですか・・・」
アンドレも完全に呆れ顔だ。
もうね、僕の心の扉はガッチリと鍵を掛けてしまっているから、君が押しても引いても開かないんだけどね、セシリア嬢。
「まったく・・・。僕にダイレクトにアタックしてくるわけでもないから、迷惑行為だと苦情を言う事もできない」
「そうですね。今の時点で苦情を言ったら、それこそ『自信過剰の痛い男』になってしまいますね」
アンドレは顎に手を当てて呟いた。
「まあ、あれからクラウディアに対して何かを仕掛けてくることもないし、変な噂を流す様な真似もしていないからいいけど」
しかし、彼女が僕を諦めていないことは確かなので、今は無視を決め込んで、魔のイベントに備えることにしよう。




