34.恋人
「恋人・・・」
その場にいた全員が、クラウディアの言葉を復唱するように呟いた。
「そうですわ! 恋人ですっ!!」
クラウディアは再びビシッと言い放つ。
恋人・・・。
世界で一番好きって・・・。
クラウディアのもとに駆け寄るはずだったのに、僕は両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んでしまった。
もう、ディア。君は僕をどうしたいだ・・・?
〔何してんですか・・・、カイル様・・・。そんなところで丸まって〕
僕の頭上から冷めた声が聞こえる。
〔だって、アンドレ。クラウディアが僕を恋人って・・・、僕のことを世界で一番を好きだって・・・〕
僕は悶えながら小声で言い返す。
〔・・・早くクラウディア嬢のもとに行った方がいいのでは? 忙しいのに来いと言うから来てみれば・・・。悶絶するあなたを見るためじゃないでしょう?〕
本当に人の惚気に付き合わない男だな。
早く来いって言ったのに今頃来ておいて・・・。つれない奴だ。
クラウディアの友人がセシリアを呼び出したと僕の影―――本来ならビンセントの警護役なんだが―――から報告を受けた時、すぐにアンドレを呼んだ。
彼女たちがバトルになれば、セシリアはクラウディアに非を擦り付けようとするだろうと想像できたからだ。
その時に、僕以外に彼にも「通りすがりの目撃者」になってもらおうと持って呼びつけたのだ。
しかし、クラウディアが来てしまうことは想定外だった。
ましてや、僕がその場を収めるより先に飛び出して応戦してしまうとは。
僕はゆっくり起き上がると、クラウディアたちの方を見た。
彼らはディアの言動に気を取られ過ぎて、僕とアンドレに気が付いていない。
彼らの元に向かおうと生け垣を割って入る僕に、
〔その締まりのない顔を何とかした方がいいですよ、カイル様〕
背後からアンドレの呆れた声がする。
うるさいな。自分でも分かってるよ、にやけてるって。
アンドレの言葉を無視して、クラウディアの元に向かった
「ディア。大丈夫かい?」
「カ、カイル様!」
クラウディアは驚いてピョンと飛び上がると、僕の方に振り向いた。
一時、僕の存在を忘れていたらしい。今の言葉を聞かれたとやっと気が付いたようだ。見る見る顔が真っ赤になった。
「カ、カイル様、えっと、あの・・・、今のは、その・・・」
先ほどの勢いはどこへやら。クラウディアは真っ赤な顔でモジモジとし始めた。
「カイル様!」
セシリアは僕の名を大声で叫ぶと、こっちに向かって駆けてきた。
だが、僕は彼女が傍に来る前にクラウディアの両手を取ると、
「ダメじゃないか、僕の腕の中から勝手に飛び出しちゃ。びっくりしたよ」
そう言って、彼女の指先にそっと唇を当てた。
「「!!」」
息を呑んだのはクラウディアだけではない。隣でセシリアも息を呑んだのが分かった。
「掌が擦り剝けてるよ。すぐに救護室に行こう」
僕はそう言うと、クラウディアを横抱きした。
「カ、カイル様! な、なにを! 私、歩けますわよ!」
「ダメだよ、膝だって擦り剥いているのに」
「ちょっとですわよっ! 全然大丈夫です! 歩けますわ!」
僕の腕の中でディアがバタバタと暴れる。
「どうして嫌がるの? 僕は君の恋人なのに」
「恋人っ!」
「うん。恋人同士でしょう? 僕たちは。恋人を抱きあげて何がいけないの?」
僕はにっこりと笑ってディアを見た。
「それに、さっきまで僕の腕に抱きしめられていたのに、何で今更恥ずかしがるの?」
「あ、あれは! さっきのは・・・!」
「それを突然飛び出して。僕から逃げるなんて悪い子だね、ディアは」
僕はクラウディアの額にチュッと唇を当てた。
きゃあ!とディアの友人たちが黄色い声を上げる。
アンドレは半目になっている。『何を見せられてるんですかね』と言う心の声がダダ洩れだ。
チラリとヒロインに目をやると、照れて真っ赤なクラウディアとは違い、怒りで赤い顔でワナワナ震えていた。




