33.対峙
「だから違うと申し上げているでしょう! クラウディア様はそんなこといたしません!」
「嘘! あなた達はクラウディア様を庇っているのね!」
「庇う? ええ、もちろん庇っていますわ! それは貴女の蛮行からね!」
「え? や、やっぱり庇っているんじゃない! クラウディア様の嫌がらせを!」
「だから違うって言っているでしょう! ああ! イライラしてきたわ! 貴女って頭悪いのかしら? もしかして馬鹿なの?」
一人の令嬢がとうとう怒りの頂点に達してしまったようだ。
持っていた扇をバキッと折ってしまった。
〔ひっ・・・! エ、エリス様・・・!〕
クラウディアが僕の腕の中でビクッと体を揺らした。
〔カ、カイル様! エ、エリス様が、お怒りですわ・・・! ど、どうしましょう?〕
そりゃ、怒って当然だろうね。僕も怒ってるよ。
「大体、何ですの? 殿方三人も従えた上に、他の殿方を追いかけ回して! 恥ずかしいと思わないのかしら? セシリア様は」
「な! 何ですって?」
「淑女としての倫理観が欠けているのね。まあ、仕方がないかしら? だって、貴女って所詮平民・・・」
「いけませんわっ! エリス様!」
そう大きく叫んだと思ったら、クラウディアは僕の腕から飛び出した。
生け垣を割って勢いよく飛び出したのはいいが、蔦が足元に引っ掛かったようだ。
友達二人のもとに駆け寄る前に、ビターンと派手に転んでしまった。
「「クラウディア様!?」」
二人は目を丸めたが、クラウディアはすぐにピョンっと飛び跳ねるように立ち上がると、エリス嬢の元に駆け寄った。
「いけませんわ! エリス様がそんな心にも無いことをおっしゃっては!」
「ク、クラウディア様・・・、ちょ、ちょっと、お怪我は・・・?」
「エリス様! マリア様! 私の為に怒ってくれてありがとうございます。でも、私は大丈夫ですのよ!」
クラウディアはエリス嬢の両手を取ってにっこりと笑った。
「だ、大丈夫ではないでしょう! こんなに派手に転んで! お顔が汚れてますわよ! 手のひらも見せてくださいな!」
エリス嬢はクラウディアに握られた手を引き抜いたと思ったら、ハンカチを取出し、クラウディアの顔を拭き始めた。
マリア嬢も傍に来ると、
「もうっ、もうっ! むやみに走るからですわ! 淑女らしくないですわよ? お怪我は?」
彼女もハンカチを広げて、クラウディアの汚れた制服をパタパタと払った。
小柄な彼女はまるで子供の様に成すがままにされている。
「ちょっと! クラウディア様、手のひらを擦り剥いてますわよ!」
「まあ! お膝も!」
嘘! 早く救護室に連れて行かなきゃ!
僕が飛び出そうとした時だ。
「やっぱり、クラウディア様ね! 二人に私を虐めさせたの!」
セシリアがクラウディアに向かって叫んだ。
「だから違うって、さっきから何度言えば・・・」
「違いますわ!」
エリス嬢の言葉を遮って、クラウディアが答えた。
そして、友人二人の元から離れると、セシリアに向き合った。
「お二人はあなたを虐めてなんておりませんわ。私のことを思ってあなたの行動に苦言を呈してくれただけですわ」
「苦言って・・・! 私は責められる行動などしてないもの! カイル様と仲良くなって何がいけないのよ?」
セシリアはクラウディアを睨みつけた。
「仲良くなっていけないなんて誰も言っていませんわ。でも、さっきエリス様がおっしゃったように過度な触れ合いは問題ですわ。だって、カイル様は私の婚約者ですもの」
「婚約者、婚約者って・・・、家同士が決めただけで、互いに想い合ってはいないでしょうに! 好きでもない人と婚約なんて気の毒だわ、カイル様が!」
「そんなことないですわ!」
「いいえ! あなたは『婚約者』という立場にしがみ付いてるだけよ! その立場だけでカイル様に近寄る人を嫉妬してるんだわ!」
セシリアはクラウディアを指差した。
「『婚約者』だからってカイル様を束縛しないで! 自由にしてあげてよ! 嫉妬なんて醜いわ!」
「・・・ないわ・・・」
「え?」
「醜くなんて、ないわ・・・」
「は?」
「嫉妬は醜くなんてないっ! その人の事をそれだけ大好きだっていう証拠だもの!」
クラウディアはキッとセシリアを見据えた。
「それに、私はあなたが言う『婚約者』と言う立場だけで嫉妬しているわけじゃないわ! 私はカイル様のことが大大大大好きよ! 世界で一番好きよ! 私のカイル様への想いを見くびらないで!」
今まで弱気なクラウディアしか見ていなかったせいか、セシリアは彼女の気迫に驚いたようだ。
「それに、カイル様と私はただの婚約者と言うだけではないですわ!」
今度はクラウディアの方がセシリアにピシッと人差し指を向けた。
「婚約者である前に恋人同士ですのよ! ですから、私の恋人に気安く触れないで頂きたいわ!」




