32.花園にて
ある日の昼過ぎ。
学院の庭園内には、そこそこ綺麗な花園がある。庭園の奥にあるので普段あまり人はいない。
僕は偶然そこを通りかかった時、何やら数人の言い争う声が聞こえた。
そっと近づいて様子を伺うと・・・。
そこにはセシリアと三人の取り巻きの男子と、僕のクラスの令嬢二人が対峙していた。
「ひどい! ひどいわ! 言いがかりです、そんなの!」
セシリアはヒックヒックと泣いている。
それを庇うように、取り巻き男子たちが前に出てきた。
「そうだ! 言いがかりだぞ! セシリアは何も悪くないじゃないか!」
「君たちこそ、やっかみじゃないのか? セシリアに対してさ!」
「そんなことありませんわ!」
一人の令嬢が大きな声で言い返す。
「そうですわ! セシリア様にやっかむ要素など一つも有りませんもの!」
もう一人も応戦する。
「じゃあ何だよ? ただの意地悪だってことか?」
取り巻きは言い返す。
「ひどーい! 意地悪するなんてぇ!」
「泣かないで、セシリア! あいつらなんか相手にするなよ!」
「意地悪されても、僕らが守ってあげるさ!」
「意地悪ですって? そんなことしてませんわ! あまりにもセシリア様の態度に見兼ねたのでご忠告したいだけですわ!」
「そうですわ! 淑女としてとても褒められた行為ではありませんもの!」
「はあ? 何を偉そうに! セシリアの何が悪いんだ?!」
ヒートアップしてきたところに、僕の視野に小さな人影が入り込んだ。
それはその渦中に飛び込みそうだったので、慌てて駆け寄り、後ろから抱きかかえ口を押えると、急いで生け垣に隠れた。
[静かに・・・! ディア!]
[カ、イル、様・・・]
ディアは僕だと分かると、心底ホッとした顔を浮かべた。
僕らは無言で、彼らのやり取りと覗いた。
「悪いというより、はしたないですわ!」
「はしたないって、ひどい! 何がいけないんですか?」
「はしたないでしょう? 婚約者のある殿方に馴れ馴れしくされるなんて!」
「馴れ馴れしいって、そんな! 仲良くしているだけです!」
「仲良くすることは結構ですわ。それ自体は美しいと思います。ですが、腕を引っ張ったり、絡めたり、ベタベタ触ったりするのはどうなのでしょうか?」
「そうですわ! 私だったら婚約者にそんなことされたら不快ですし、他の殿方にそんなことしようと思いませんわ」
「そんなぁ! 仲良くしているなら触れてしまうことはあるじゃないですかぁ!」
えっぐえっぐと泣きながら袖口で涙を拭うセシリア。
それを慰めようとする紳士三人。
「仲良くするってそんなにいけないこと・・・?」
「そんなことないよ! セシリア!」
「うん! あいつらの心が狭いんだ!」
「だって、向こうだって仲良くしてくれるのよ?」
「うん、そうだよね!」
三人にチヤホヤされている光景を、令嬢二人は半目で見ている。
「向こうも仲良くって・・・、そんなわけないでしょう・・・」
令嬢は呆れたように呟いた。
「本当ですわ・・・。呆れてものも言えない。ランドルフ様も迷惑ですわよ!」
うん。大迷惑。
★
「そんなことないわ!」
セシリアは声を荒げた。
「いいえ! 迷惑ですわ、きっと! それよりも何よりも、クラウディア様に失礼だと思いませんの?」
「そうですわ! 最近特にランドルフ様を付け回して! クラウディア様の前でも平気で腕を取られるなんて、はしたない以外何ですの?」
本当・・・。最近多くなったんだよね、接触が。ま、焦ってるんだろうけど。
「・・・クラウディア様のせいね・・・?」
セシリアの声のトーンが低くなった。
「は?」
「クラウディア様の命令ね!? クラウディア様があなた達を使って、私を貶めようとしているのね? そうでしょう? クラウディア様に言われたのでしょう?!」
それを聞いたクラウディアは目を丸めて僕を見た。
ブンブンと必死に首を振っている。
分かってるよ、ディアは人に命令できるタイプじゃないもんね。
「ひどい! ひどい人だわ! クラウディア様って!」
セシリアはまたえ~ん!っと泣き出した。
「セシリア! 泣かないで!」
「ひどい子だね、クラウディア嬢って!」
「僕がクラウディア嬢にガツンと言ってやるよ!」
セシリア信者たちが必死に彼女を慰める。
「何を仰っているの?! クラウディア様がそんなことなさるわけないでしょう! これは私たちの独断ですわ! 貴女の行為があまりにも目に余るから!」
令嬢は堪らず大声で怒鳴った。
「嘘よ!」
セシリアも同じくらい大声で叫んだ。
「クラウディア様がひどくヤキモチを焼いているのよ! カイル様が私と仲良くしているから!」
そんな会話を聞きながら、じーっと僕を見るクラウディアに、眉間に手を当ててフルフルと首を振った。
「私は生徒会メンバーなのよ! だからいつもカイル様と一緒なの! だから仲良くなって当然なのよ!」
セシリアは捲し立てている。
「それだけなのに、ヤキモチで嫌がらせなんて! ひどいわ、クラウディア様は! しかもお友達を使うなんて! 醜い行為だわ!」




