28.報告
翌朝の学院に向かう馬車の中で、僕は向かいに座っているディアの手を取った。
「ねえ、ディア。実は報告することがある」
本当のところ、昨日一晩かなり迷った。ヒロインの件をクラウディアに伝えるかどうか。
生徒会応援員を勝ち取ったセシリアの事を知れば、彼女は相当動揺するだろうし、心配するだろう。
とはいえ、黙っていてもいつかは知れることだ。他人の口から彼女の耳に入るよりは、僕の口から聞いた方がいいと思う。
僕の真剣な口ぶりに、彼女も何を言われるか分かったようだ。
僕の手の中で彼女の手がギュッと握りしめられるのが分かる。
「セシリア嬢が生徒会の応援員になった」
クラウディアの体がビクッと震えた。そして見る見る血の気が引いて行く。
「しっかりして! ディア!」
「・・・そ、それは・・・、カイル様が・・・誘ったのですか・・・?」
青白い顔で僕を見る。
僕は首を振った。
「そんなわけないでしょ! 誘ったのは会長だ」
「会長?! 本当に?」
「そうだよ。会長だ。会長が彼女を気に入ってね」
「・・・そんな・・・。彼は反対するはずなのに・・・」
彼女は狼狽えたように目を泳がす。
「物語では・・・、カイル様がヒロインを生徒会に誘うのです。それを会長が反対するのですが、カイル様が押し切ってしまって」
はい?
「彼女のことを散々褒め称えて・・・。噴水事件でも自分が被害者なのに誰も恨まない彼女は素晴らしいとか何とか言って・・・」
それ、僕が言ってんの?
もう、本当に物語の僕って何者?
僕は耐えられなくて、クラウディアを包んでいる手に額を乗せた。
「会長はあまり良く思わないのですが、殿下もカイル様の味方をされるので、あっさりと彼女は応援員に決まってしまうのです」
そうなんだ・・・。ビンセントも反対してよ・・・。
「・・・そしてすぐに応援員から正式メンバーになるのです・・・」
僕はそっと顔を上げた。
「本当に・・・?」
「はい・・・」
クラウディアは力なく頷いた。
「どうせ応援員は一人だし、一人くらい正式メンバーに加わったって変わらないだろう的な感じで・・・」
なんだそりゃ・・・。
僕は体を起こし、大きく溜息を付くと、握っているクラウディアの手を両手に挟むように握り直した。
「ディア。誓って言うけど、僕は彼女を誘っていない。誘ったのは会長だ」
じっとクラウディアを見つめると、彼女は小さく頷いた。
「会長は彼女のことを相当気に入ったようだ。彼は散々彼女を褒め称えてたよ。さっきディアが言った内容は僕じゃなく、彼が言ってた」
「え゛・・・」
「あと、彼女が正式メンバーになるという話だけど、彼女は男爵令嬢だ。この学校の固有のしきたりでメンバーにはなれない」
「そこをカイル様が捻じ曲げるのです。公爵家の権力を使って」
ここで権力使うのかよっ、僕! セコっ!
「いや、ないない! それは無いよ、安心して、ディア」
僕は思いっきり首を振った。
「それに、さっき応援員はセシリア嬢だけって言ったね? 実際にはあと二人男子生徒がいる。全員で三人だ」
「三人も?」
ディアはビックリしたように目を丸めた。
「三人・・・。物語と違いますわね・・・」
うん、違うよ。違うのはそこだけじゃないよ。誘った人物も違うからね。そこ一番大きいからね!
「でも・・・、やっぱり、どうあっても物語の通りに動いてしまいますね。ちょっと違うだけで・・・。大筋は変わらないわ・・・」
クラウディアは不安げに俯いた。
「いいや、違うよ、ディア! 全然違う。物語通りなんかじゃない!」
僕はそう叫ぶと、彼女の手をさらにギュッと力を込めて握りしめた。
そうだ! 物語通りなんて有り得ない。有り得るもんか!
もし、この物語が僕の運命だというのなら、それこそどんな手を使ってでも捻じ曲げてやる!
「ねえ、ディア。セシリア嬢が生徒会に入り込んで心配だとは思うけど、どうか僕を信じて」
コクンと頷くディア。
「それに、こんなふうに僕が君に懇願している時点で、君の物語とは全然違うでしょ?」
僕はクラウディアの顔を覗き込むと、少し意地悪そうに笑って見せた。
彼女は頬をポッと染めると、コクコクコクと何度も頷いた。
僕は赤くなった彼女の頬にチュッと音を立てるようにキスをした。
「!!!」
彼女はピョンと飛び上がり、慌てて両頬を押さえようとしたようだが、生憎両手は僕がきっちり握っているので、身動きが取れない。
目をまん丸に丸めて、真っ赤な顔で僕を見ている。
そんな顔が可愛くて、僕はもう一度、額に唇を落とした。
「~~~~!!」
彼女は声にならない唸り声を上げて、俯いてしまった。顎が胸元に付きそうなほど俯いている。
「ディア。そんなに俯いたら顔が見えないよ。顔上げて?」
「無理~~! 見せられない~~~!」
「どうして? 僕は君の顔が見たいのに」
「手を放してください~~! カイル様~!」
「嫌だよ。そうしたら、君は顔を覆ってしまうでしょ?」
僕は彼女の照れる様が可愛くて、ちょっと調子に乗ってしまった。
手を放さずに彼女の隣に移動すると、体を寄せて耳元に囁いた。
「ねえ、ディア。顔を上げて」
彼女は顔を上げたと思ったら、僕の胸に顔を埋めてきた。
「絶対、見せません~~~!」
・・・ディア、これは反則でしょ・・・。
いきなり反撃を食らって、固まってしまったのは僕の方。
ごめんなさい、ディア。揶揄い過ぎました・・・。




