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20.同じシーン

公爵家の馬車が来るまで、僕らは来賓用の部屋を借りた。


「大丈夫かい? ディア。ごめんね、すぐあの場から連れ出せてあげられなくて」


僕はクラウディアをソファに座らせると、彼女の前に跪き、彼女の両手をそっと握った。

その手はまだ微かに震えている。


「カ、カイル様・・・、わ、わ、私・・・、そんなつもりなかったのですが・・・」


「うん。分かってるよ」


「助けるつもりでしたのに・・・。気が付いたら・・・、彼女はもう落ちていて・・・」


「うん、そうだよ。ディアは助けようとしたんだ」


「も、もしかして・・・、本当は突き落としちゃったのかしら・・・? 無意識に・・・?」


「違うよ。君が落としたんじゃない。彼女が勝手に落ちたんだ」


「物語の強制力が・・・、私・・・なんてことを・・・」


「違う! クラウディア!」


僕は声を荒げ、彼女の手をギュッと力強く握った。

彼女はハッと我に返り、やっと僕の顔をしっかりと見た。


「落ち着いて、ディア。君はセシリア嬢を突き飛ばしてなんかいない。彼女が勝手に落ちたんだよ、自分の不注意で転んでね」


クラウディアの手の震えが少しずつ治まってきた。


「なぜか噴水脇にバナナの皮があった。それを踏んだよ。ディアもそれに気が付いたんでしょ?」


彼女はコクンと頷いた。


「・・・セシリア様が来る前に、数人の殿方があそこで果物やお菓子を食べながらお喋りをしていて・・・。一人がその場に皮をポイってしたのを見て、嫌だわって思っていたのです・・・」


ふーん、マナーの悪い奴がいるもんだな。

だが、これでセシリアの自作自演でないことは分かった。


「でも、すぐにお掃除の方がいらっしゃると思って、私も自分のおしゃべりに夢中になってしまって。気が付いたら、セシリア様が近くに・・・。全く気が付いていないようでしたから、教えてあげようと・・・」


「でも、残念ながら間に合わず、セシリア嬢は噴水に落ちてしまった」


「・・・はい」


「君が落としたわけじゃない。君自身もちゃんと分かっているじゃないか。ね? だから安心して。気に病む必要なんてどこにもない」


「・・・でも」


彼女は俯いた。


「私、思い出して・・・。さっきのシーン。物語でありましたわ・・・」





僕の手の中で彼女の拳が固く握られるのが分かる。


「私はヒロインを突き飛ばして噴水に落とすのです。それを責め立てる周りの人たちに彼女がバナナの皮を踏んで勝手に滑って転んだだけだって言い放って・・・。そこにカイル様が現れて、周りを収めようとしてくれるのですが・・・」


なるほどね、物語とよく似ている。


「私は執拗に自分のせいではないと言い張って、でも、そこにリーリエ様に真実を突き付けられて・・・」


彼女は言葉を詰まらせて、唇を噛んだ。


「・・・呆れたカイル様が・・・、ヒロインを抱き抱えて去ってしまうの・・・」


うわぁ・・・、最低だね、物語の僕。正義感が強いヒーローのつもりなのかな。

どんなに悪女だとしても、自分の婚約者を蔑ろにするって、どうなんだろうね。しかも人前で。


「目の前の光景が物語と一致して・・・、私、混乱して・・・。それに、あんな状況、誰が見ても私が突き落としている様に見えますし・・・。それどころか、本当に突き落としたのかもって・・・」


それであんなに震えていたんだ。


「もし違っても、カイル様は・・・、信じて下さらないかも・・・って・・・」


ポタポタっと冷たい雫が、僕の手の甲に落ちた。


「あの子と・・・、私を置いてヒロインと行っちゃうかもって・・・」


僕は彼女から手を離すと、その手で彼女の顔をそっと包んだ。

親指で彼女の涙を払う。


「聞き捨てならないなぁ、その言葉。この僕を疑うなんて。僕の方こそ拗ねちゃうよ?」


「う、疑うだなんて! そ、そんな。そういうつもりでは・・・」


「でも、僕が、あの状況に簡単に飲み込まれるって思ったのでしょう?」


僕はちょっと意地悪っぽく笑って彼女の顔を覗き込んだ。


「うーん、残念だなあ。見た目だけで安易に判断する頭の弱い男に見えていたなんて・・・」


「そ、そんなこと! そんなこと思っていませんわ!」


彼女は必死に否定する。

焦り過ぎて涙も引っ込んだようだ。


「これでも僕は公爵令息だからね。立場的に、偏った情報に頼らず、冷静に公平に物事を判断するように厳しく教育を受けているんだけどなあ。自分の都合のいい情報だけを信じるような行為は身を滅ばしかねないからね」


「も、もちろんでございますわ!」


「それなのに、あの場でさっさと君を犯人と決めつけるとでも?」


「で、でも、それは、その・・・、相手がヒロインですし・・・。想い人であれば、そちらの方に信用度は偏るかと・・・」


「でも、僕は彼女を知らないし、想い人でもない」


僕ははっきりとした口調で否定した。

僕の強い口ぶりにディアは息を呑んだ。


「それに比べて、君は僕の婚約者で、君の人柄は誰よりも知っている。もし、さっきよりももっと不利な状況下だとしても、信用度は君の方が何倍も大きいよ」


折角引っ込んだ涙がまたジンワリと溢れ出した。

僕は再び親指で彼女の涙を拭う。


「ね? ディア。僕は君を信じてる。だから君も僕を信じて。僕は何があっても君を裏切るようなことはしない」


彼女はコクンと頷いた。

さっきと違う、嬉し涙を流すクラウディアの顔は美しい。

僕は吸い寄せられるようにそっと彼女の額に唇を落とした。


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