表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/115

第99話 感情の臨界点

 国王は苛立ちと焦りを覚えている。

 顔から滝のように汗を流し、唇は震えていた。

 噴き上がる怒りを発散できず、悶々とするばかりだ。

 精神的な揺れは計り知れない。


 握り締めた左右の拳の中で炎が明滅していた。

 それ以上は大きくならないので能力はやはり封じられているようだ。

 炎が見えるたびに指が破損し、何本かが分離しそうになっている。

 禁止事項を破ったことによる反動だろう。


 おそらく国王は意図的に炎を発現しているわけではない。

 強い怒りが無意識に炎を引き出しているのだ。

 それが原因で空間の法則に反し、肉体の損傷が進んでいる。

 損傷が進むと、国王はさらに焦って怒りを募らせる。

 まさに悪循環だった。


 その様をエイダは静かに傍観していた。

 彼女はもう何もしていない。

 ただそこに座って見つめているだけで国王が自滅の一途を辿っているのだ。

 何もしないという行動こそが、どんな行動よりも国王を追い詰めている。

 それを彼女は正確に理解していた。


 エイダは憐みの眼差しを以て告げる。


「違反行為が多いね。自業自得だよ」


 国王が目を剥いてエイダに詰め寄った。

 その弾みで両腕の亀裂が大きくなっていくが、本人は意に介さない。

 国王は徐々に崩壊する身体で叫ぶ。


「貴様はっ、何が目的なのだ! 一般人のくせに、なぜ邪魔をする!? この場に不釣り合いな弱者が余計なことをするなァッ!」


 感情の爆発に伴って、亀裂が腕から肩へと昇る。

 さらに鎖骨から首へと至り、国王が勢いよく咳き込んだ。

 白い粉のような物体を口から吐き出す。

 損傷は刻一刻と悪化しており、既に取り返しの付かない領域に達していた。


「貴様さえ……貴様さえしなければ、すべて上手くいっていたというのに……ッ!」


 国王は掠れた声で唸る。

 亀裂は全身へと広がっていた。

 溝がだんだんと深まり、割れた部位が崩れ落ちていく。


 国王はエイダに憎悪を抱いていた。

 そこには蔑みや嫉妬も含まれているだろう。

 特別な力を持たない彼女が立ちはだかる事実が不満なのだ。


 賢者に至って有名になった後も泳がせていたのは、どこかで破滅させようとしていたに違いない。

 そうして魔族の暗躍を活発化させたところで暗殺を目論んだ。

 無力なエイダは窮地に陥り、築き上げた偽りの栄誉のせいで誰も頼れず、歴史の裏に葬られそうになっていた。


 唯一の誤算は、彼女が蔵書狂と契約したことである。

 おかげで暗殺計画はことごとく失敗し、最終的には致命的な惨敗を招くことになった。


 国王の自壊をエイダは無表情に眺めていた。

 暫し反応を示さなかった彼女は、何かを決したように述べる。


「やはり君に国は任せられないね。ここで退場したまえ」


 その宣告の直後、国王の顔に明確な恐怖が浮かぶ。

 両膝が音を立てて崩れて転倒した。

 テーブルに縋り付こうとするも、両手の指が砕けて顔面を強打する。

 絶叫と同時に、割れた鼻と片目がこぼれ落ちる。

 立ち上がれない国王は、エイダに見下されながら砂になろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今話もありがとうございます! >「やはり君に国は任せられないね。ここで退場したまえ」 >立ち上がれない国王は、エイダに見下されながら砂になろうとしていた。 これで決着、か。 [気になる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ