第97話 舌戦の始まり
エイダは国王を観察する。
瞬きをせずに凝視する様は、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。
恐怖とはまた違う。
紛うことなき人間であるはずなのに、どこか違和感を覚える。
その差異が彼女の纏う異質さを構成していた。
エイダは黒衣の集団がいた場所を指差して揶揄する。
「部下が無残な死を迎えたのに落ち着いているね。一国の王とは冷酷でないとやっていられないらしい」
国王の目に怒りが走る。
ほんの僅かに炎がちらつくも、それが発現に至るまではなかった。
暴力禁止の法則が働いているせいだ。
肘掛けに手を置いた国王は侮蔑の眼差しで応じる。
「よくもそのようなことを言えたものだな」
「なんとでも言うがいい。図々しいのが取り柄なのでね。時にはあえて空気を読まないことが成功の秘訣さ。だからこうして生き延びている」
エイダは完全に開き直っていた。
糾弾に屈せず、嬉々として対応する始末である。
彼女の精神力はここに来て最高潮に達し、常軌を逸した耐久性を発揮している。
少々の罵詈雑言や挑発ではまずなびかないだろう。
肘掛けを掴む国王の指に力が込められていく。
小さな音を立てて軋んでいた。
暴力と判定されるか怪しい加減である。
目ざとくそれに気付いたエイダが指摘した。
「あまり腹を立てるべきじゃない。微々たるものだが肉体の破損に繋がるよ」
「貴様の言葉は嘘だらけだ。そうやって不安を煽っているな?」
「やれやれ、信頼されていないようだね。これ以上は不毛だし、そろそろ本題に入ろうか」
ため息を吐いたエイダは苦笑し、それから座る姿勢を少し崩した。
真っ当な戦闘はとっくに終わった。
ここから先は異常な舌戦が繰り広げられる。
特殊法則の定められたこの謁見の間にて、両者は相手の心を折るために言葉を交わすのだ。
首を鳴らした彼女は前のめりになって話題を切り出す。
「さて、王国の今後について話し合いたい。」
「貴様と交わす議論などない」
「そう言わずに考えてくれたまえよ。互いに大きな影響力を持つ者同士だ。我々ならきっと建設的なやり取りができるはずだよ」
エイダは手を組んでそう語る。
薄ら笑いからは、本音か嘘かは判別が付かない。
彼女のことだ。
きっとどちらも間違っていないのだろう。
虚実を入り混ぜた会話を好むのはよく知っている。
そうやって本心を悟らせないのが狙いなのだ。




