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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第95話 揺らがない賢者

 理論上、どれだけ強大な存在だろうと殺すことができる空間だが、当然ながら相応の危険性がある。

 それは術者のエイダ自身にも法則が適用される点だ。

 もし彼女が動揺すれば、この空間は容赦なく牙を剥く。

 空間の解除も任意ではできそうにない。

 魔力の流れから考えるに、術の維持が困難になるまで強制的に持続されるようだ。

 仮にエイダが不利になって術を止めにかかっても、空間は彼女を崩壊させるまで猛威を振るう。


 用途が局所的で使い勝手が悪く、下手をすると自らの首を絞めることになる。

 魔術としてはあまりにも致命的な欠点であり、エイダはいつ自滅してもおかしくない状態となっていた。

 それにも関わらず攻防自在の反則的な力として機能しているのは、エイダが強靭な精神の持ち主であるからだ。


 一連の現象を観察していた国王は、嫌悪感を露わにする。

 彼は吐き捨てるようにエイダの術を評した。


「精神力が個人の強さに直結する……無力な貴様だからこそ辿り着く発想だな」


「そうだね、否定しないよ。そんな私に陛下は敗北する」


 エイダは悠々と応じる。

 罵倒されても一向に気にしていない。

 むしろ誇らしそうだ。

 特殊法則を意識しているのもあるだろうが、やはり並外れた胆力を持っている。

 彼女の身体は微塵も崩れず、凄まじい力を帯びていた。

 不条理な空間の恩恵を余すことなく享受している。


 国王は眉を寄せて無言になる。

 怒りや不快感を覚えているはずだが、肉体の損傷は見られない。

 おそらくは不安や恐怖といった後ろ向きな感情のみに適用されるか、感情ごとに効果の大きさが異なるのだろう。

 少なくとも表面的に分かるほどの異変は生じていない。


 エイダは不敵に微笑するだけだった。

 どこか含みのある様子で彼女は国王に言う。


「些細な心の揺れが、取り返しのつかない傷になってしまう。今は大丈夫そうだけど、くれぐれも注意することだね」


「そうやって忠告することで強調しているわけだな。貴様の魂胆は分かっている」


「解釈はご自由に。私はただの親切心で注意しただけさ」


 エイダは飄々とした態度で応じる。

 首を横に振るその仕草も、相手を挑発するために計算し尽くされていた。

 いや、エイダのすべての動作と言葉が意図されたものだ。

 あらゆる角度から精神的な揺さぶりをかけている。


 彼女は虎視眈々と国王の命を狙う。

 焦ることなく、獲物を待ち構える蜘蛛のように罠を張っていた。

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