第91話 異常現象
国王の顔が驚きから怒りへと移行する。
それは一気に膨れ上がるかと思われたが、理性によって抑え込まれた。
感情的になるのは悪手だと察したらしい。
国王は蔑みを込めて鼻を鳴らすと、玉座の前に立って述べる。
「炎を封じた程度で自慢げだな。まさかこれで勝てると思っているのか」
「ああ、思っているよ」
エイダは即答する。
彼女は何の憂いもなく、己の勝利を微塵も疑っていなかった。
それが気に障ったのか、国王はまたもや憤怒する。
拳を握った国王はエイダへと襲いかかった。
「ではその驕りと共に死ぬがいいッ」
疾走する国王は、一瞬でエイダとの間合いを詰める。
炎が使えずとも高い身体能力は残っていた。
両者にはまだ歴然とした力の差が存在している。
加速した国王はエイダの顔面を目がけて拳を振るう。
その一撃は彼女に当たる間際で止まっていた。
国王が意図的に寸止めしたのではない。
その証拠に彼は困惑している。
「な、に……?」
「まったく、落ち着きがないね。驕っているのはどちらかな」
エイダは大げさに肩をすくめる。
その間に数十発の殴打が放たれていたが、やはり彼女に触れることはなかった。
まるで透明な壁があるかのように攻撃が届かない。
しかし実際には二人を隔てる物体などなく、国王は全力で攻撃しており、エイダは無防備に立っているだけだった。
奇妙な光景が繰り広げられる中、エイダは魔導書を見せつけながら言う。
「この場における暴力行為は禁じられている。逆らえる者はいないのだよ」
国王は耳を貸さず、凄まじい猛攻を繰り出していた。
容姿は老齢の人間であるが、その本質は悪魔だ。
それも過去には魔王として君臨したほどの災厄である。
こと単純な暴力においては、世界最強の領域だろう。
その魔王が、偽りの賢者を傷付けられずにいる。
蔵書狂の助力を加味しても異様な状況だ。
ある程度まで再生して意識を取り戻したルナが攻防を見ているが、呆気に取られて固まっていた。
言葉を失う光景であるのは否めない。
暫し余裕がありそうだったので、色彩を奪う光の正体を分析する。
結果がすぐに判明し、諸々の異常現象に納得した。
(そういうことか)
なんともエイダらしい術である。
同時に、国王からすれば相性最悪と言えよう。
打ち破ることは不可能に近い。




