第9話 蔵書狂の攻撃
障壁に手間取っていた他の男達が、エイダを置いてこちらに殺到してくる。
身動きが取れない彼女よりも、自由な同行者を先に始末すべきと考えたらしい。
実に妥当な戦力であろう。
一番に障壁を越えた男が、斧を振りかざして襲いかかってくる。
「てめぇを先にぶっ殺してやる!」
叩き込まれた斧が肩口にめり込み、そのまま腹部まで斜めに切り裂く。
破れた羊皮紙の破片が少し散った。
当然ながら血は一滴も流れていない。
斧を持つ男は不思議そうな顔でこちらを眺めている。
「は……?」
「気の済むまでやればいい。こちらに害はない」
両手を広げて淡々と告げる。
この身体は書物で構成されており、いくらでも修復が可能だ。
そもそも破損したままでも行動に支障はない。
視点の置き場として使っているだけで、それ以上の意味はなかった。
斧で殺せないことを脅威に感じたのか、他の男達も加勢して攻撃を繰り出してくる。
槍で刺されて、魔術で焼かれ、剣が額を貫き、戦鎚が腹に穴を開けた。
しかし、いずれも無意味だ。
いたずらに羊皮紙を削るばかりで、微細な苦痛すら伝えてこない。
しばらく棒立ちで攻撃を受け続ける。
男達の間に戸惑いと焦りが生まれ始めていた。
得体の知れない存在と対峙していることに気付きつつあるようだ。
攻撃中も互いに顔を見合わせて、どうしたらいいのか迷っている。
エイダを殺しにかかった一人も、自らの役割をよそに逡巡していた。
若干の逃げ腰になっているのは無意識だろう。
本能が恐怖を感じているのである。
一方、注目が逸れたことでエイダは少し楽になっていた。
彼女は土に汚れた顔で叫ぶ。
「ヴィブル! 今だ、そいつらを殴り飛ばせ!」
それを聞いた男達がぎょっとする。
反撃を警戒する彼らは、反射的にたじろいだ。
攻撃を中断して防御の構えを見せる。
(殴ってもあまり意味はないのだが、仕方ない)
期限付きとは言え、エイダの助手という立場なのだ。
肝心の彼女も、未だ馬乗りされた状態で無力に等しい。
何であれここは従うべきだろう。
そう考えて斧使いの男に拳をぶつける。
衝突の瞬間、羊皮紙の指が潰れて腕が幾重にも折れて曲がった。
殴られた男は困惑した様子で固まっている。
エイダの命令で放った攻撃は、相手に微塵の損傷も与えられていなかった。




