第88話 新たな契約
エイダの覚悟は本物だった。
提示された代償は相応で、それを躊躇うことなく差し出してきたのである。
(まさか寿命をそのような解釈で記録にするとは)
人間は命があるから生きている。
寿命を縮めるとその分の人生――すなわち記録を放棄することになる。
対価としては最も重い部類であろう。
言わば前借りだ。
確かに考え方は間違っておらず、契約の代償にすることは可能だ。
そこまで認識した上でエイダに念押しする。
「後戻りはできないが本当にいいのか」
「もちろんだとも。まだ色々と作戦はあったけど、残念ながら国王に通用するか微妙だからね。命を惜しんで敗北するのは困るから、さっさと切り札を使わせてもらうよ」
エイダはあっさりと応じる。
予め聞いているだけでも、彼女は複数の作戦を用意してきた。
ところが今に至って不十分だと判断し、最も勝利の確率が高い手段を選んだ。
もはや何も言うまい。
どこまでも合理的なエイダの決意を尊重し、契約成立を認める。
そして片手を彼女の頭に置いて告げた。
「目を閉じろ。すぐに終わる」
エイダの記憶や人格を複製して吸い上げ、そこに魔術的な要素を加える。
最適なものへと編纂してから、魔導書という形で抽出した。
出来上がった魔導書は真新しく、しかし各項に無数の付箋が貼り付けられていた。
なんとも歪でエイダらしい仕上がりである。
それを彼女の手に持たせて、さらに使い方と内容を知識として頭の中に送り込んだ。
エイダは一瞬で理解したはずだ。
目を開けたエイダは微笑する。
「――なるほど。面白い力だね」
「お前のために創り上げた魔導書だ」
「ふふ、照れるね」
エイダは頬を掻いて笑う。
これで契約分のことは済ませた。
ついでに彼女の傷も治しておこうと思う。
エイダが全身各所に隠し持つ羊皮紙を使って、負傷した記録を抹消した。
ちなみにエイダは体内にも羊皮紙を保有している。
吊るした片腕に至っては、包帯と固定具の一部が羊皮紙にすり替わっていた。
これらは事前に仕込んでいたエイダの策の一つである。
国王が触れてきた場合の反撃手段で、負傷する前提ながら相討ちに持ち込むことができる。
羊皮紙は分離しているので本来の力には劣るものの、牽制以上の意味はあるだろう。
想定とは異なる使い方になったが、羊皮紙を身に付けている限りは回復効果を及ぼし続けることが可能だ。
理屈はまるで異なるものの、ルナの再生能力に似通っていた。




