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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第84話 国王の正体

 エイダが床を転がり、壁に激突した。

 起き上がろうとするも何度か吐血する。

 荒い呼吸でふらつきながらも、彼女はなんとか立ち上がった。


「はは……まさか気付かれていたなんて。まあ当然か。いつか、破綻するとは思って、いたよ……」


 エイダは満身創痍だ。

 全身各所に火傷を負っている。

 衝撃で骨も折れたかもしれない。

 吹き飛ばされる瞬間に小型の多重結界を発動させていなければ、行動不能に陥っていたことだろう。

 国王の放つ炎はそれだけ強烈なのだ。


 口元の血を拭ったエイダは尋ねてくる。


「ヴィブル、国王の正体は分かったかね?」


 彼女の目には信頼が宿っていた。

 望み通りの答えが返ってくることを疑っていない。


 腐っても十年来の仲だ。

 我々なりに培ってきたものがある。

 エイダの眼差しから深い感情が窺えた。


(分からない、で済ませては蔵書狂の名が廃る)


 分析は常に進めている。

 この場のありとあらゆる要素を加味すれば、自ずと答えを導くことができるだろう。

 エイダの期待に応えるため、ここまでに得た情報から立てた推論を披露する。


「炎の高位精霊の憑依体……もしくはそれに近い存在と混ざり合った人間だ。魔族を従えていることから推測するに、炎熱を司る悪魔の可能性も高い」


「確か五百年前に降臨した魔王は、炎を操る悪魔だったね。生まれ変わりという線があるかもしれない」


「ふむ、面白い考察だ。悪魔の魂の強度を以てすれば、能力と人格を保ったまま転生できる。別にありえない話ではないだろう」


 エイダと意見を交わすうちに考えが固まってくる。


 悪魔とは非実体の怪物だ。

 魔族の祖とも言われており、本質的には神霊と類似した高位存在である。

 普段は別次元に潜み、大半が明瞭な自我を持たずに徘徊している。

 たまに意識を確立した個体が世界に降臨し、災厄となって人々に被害をもたらすのだ。


 自在に力を振るう悪魔ならば、人々に洗脳魔術を施すのも容易だろう。

 魔族を配下に置いている状況も不可解ではない。

 いずれの暗躍にも説明がつく。


 エイダは片脚を引きずりながら歩き出した。

 彼女は国王を指差して告げる。


「陛下、あなたの正体は魔王だ。違うかね」


「……それを言い当てたところで何になる。貴様らが有利になることはない」


 指摘を否定せず、国王は怒気を発散させる。

 禍々しい魔力が周囲を蝕み、生暖かい風が腐臭と共に漂い始めた。

 床に伸びる国王の影は、輪郭が大きく歪んで変形しつつあった。

 言葉とは裏腹に、正体を的中されたことが不快のようだ。

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