第82話 侮蔑の目
国王の正体は最大の不確定要素と言える。
現に魔眼に対抗し、交渉に至るまでの流れを乱されていた。
この点をどうにかしなければ、エイダの想定通りに進めるのは困難だろう。
(少し調べる必要があるようだ)
羊皮紙を伸ばして情報の回収を試みる。
ところが、国王に睨まれた途端に羊皮紙が発火した。
銀色の炎が巻き上がり、人型まで延焼する勢いで膨らんでいく。
(視線を起点にした術か)
冷静に考察しつつ、燃えた羊皮紙を分離する。
分離箇所は灰も残さずに消滅した。
炎には魂まで蝕む性質と、対象の魔力を抑制する効果があるらしい。
ようするに魔力由来の能力を弱体化させるのだ。
燃やされると術が使いにくくなるようで、常人では対処が極めて難しい。
見つめるだけで発火できる点も合わせて考えると、破格の性能と言えよう。
危険共加味すれば間違いなく禁術の類である。
(国王は炎魔術師なのか?)
今度は羊皮紙の腕を分裂させて、一度に国王へと殺到させる。
その場から飛び退いた国王は、口から赤い炎を吐き出した。
羊皮紙の触手は瞬く間に焼き払われて消し炭となる。
老体とは思えない俊敏な動きだ。
魔術による肉体活性を行っているのだろう。
炎という属性から鑑みてもそう解釈するのが自然である。
それより注目すべきは、国王が迎撃に使った術だ。
視線による発火ではなく、わざわざ距離を取ってから口から炎を吐いた。
効率を捨てて行動したことに関して、何らかの理由があると考えるのが妥当だろう。
(視線での発火は厄介だが、連続では発動できないようだな)
或いは魔力消耗が激しいものと思われる。
強力ではあるものの、ある程度の対策はできそうだ。
能力について分析していると、国王はこちらを一瞥した。
国王は両手の指に炎を纏わせながら述べる。
「蔵書狂、貴様の能力は知っている。直接触れさせなければいい話だ」
その時、国王の背後に気配を消したルナがいた。
今の攻防の中で移動していたらしい。
彼女は短剣を構えて突進する。
ところが両者の間に炎の壁が発生し、ルナの斬撃を防いだ。
(自動防御か)
国王が振り向きざまに手を振る。
炎の壁が変形し、数十本の槍となって飛び出した。
ルナは短剣で弾きながら後退し、悔しそうな顔を見せる。
不意打ちに反応されるとは思わなかったのだろう。
彼女の衣服の端々が焦げて裂け目ができていた。
国王は炎を消して嘆息し、そして蔑んだ目でルナを見る。
「英雄の末裔でありながら、王に歯向かう快楽殺人者めが。貴様が最も醜悪で見苦しい」
「ふーん」
ルナは興味なさげに応じるも、頬が僅かに痙攣していた。
隠し切れない苛立ちが覗いている。
今にも突貫しそうな勢いだ。
それにいち早く気付いたエイダは、ルナを庇う位置に立って国王に抗議する。
「私の仲間を悪く言わないでくれ。怒りで魔術が暴発してしまいそうだ」
「つまらん嘘をつくな。貴様の正体は分かっている」
国王は吐き捨てるように返す。
その眼差しに色濃い侮蔑の情が浮かんでいた。
「――エイダ・ルース、貴様は虚構の塊だ。この場に相応しくない弱者であろう。なぜ平然と居座ることができる?」




