第80話 挨拶代わりの策
玉座に鎮座する国王は、厳しい面の老人だった。
全身から憎しみと懐疑心が溢れ出している。
触れて記憶を奪わずとも分かる。
国王は数々の闇と対面し、それらを呑み込んできたのだろう。
魔爪の導示を従えているというのも納得の貫禄だ。
歴史を動かす傑物であるのは間違いない。
国王の背後には、数人の黒衣の集団が控えている。
我々の足止め役に選ばれなかった者達だ。
いずれも魔物の仮面を被っており、周囲に溶け込むように佇んでいる。
実力は不明だが、全員がおそらく魔人化の手術を受けているはずだ。
事実上、国王の最終戦力なのだろう。
彼らの固有能力にも注意せねばならない。
分析を進めていると、国王が落ち着き払った声音で話しかけてきた。
「賢者エイダ・ルース。よくぞここまで来れたものじゃな」
「あなたの数々の妨害工作は熾烈だったが、私にとっては生温いものでしたよ。もう少し工夫を凝らしてもらわないと張り合いがないね」
「……減らず口も相変わらずか」
国王は蔑みの感情を隠さずにぼやく。
薄闇に浮かぶ目は、ほんのりと魔力の光を帯びていた。
胡乱な国王の視線が僅かにずれてこちらを一瞥する。
「それにしても、勇者の末裔に蔵書狂を味方に付けるとは。人誑しも度を超えると気味が悪い」
「あまり褒めないでください。照れて顔が赤くなってしまいそうだ」
エイダは不敵な笑みのまま言う。
彼女は堂々と歩みを進めながら黒衣の集団を指差した。
「陛下にも素晴らしい配下がいるではありませんか。実に頼もしく見えますが」
「ただの傀儡じゃ。使い捨ての存在に過ぎぬ。貴様らを抹殺できなかった時点で価値は消えた」
「ふふ、辛辣ですね。そういうところが人心掌握に向いていないのですよ。だからこうして私が敵対している」
「……生意気な」
国王の言葉に殺気が混ざる。
その瞬間、エイダが懐から取り出した物を掲げた。
彼女の指がつまむのは眼球だ。
それを認めた国王と黒衣の集団は硬直する。
眼球を持つエイダは穏やかに述べる。
「おっと、動かないでください……まあ、動きたくとも動けないでしょうが」
どこか得意そうなエイダの表情には挑発が多分に含まれていた。
国王から怒気が滲むも、小刻みに震えるばかりで反撃はない。
黒衣の集団も同様だ。
謁見の間における決戦は、エイダが先手を取る形で始まった。




