第8話 エセ賢者の実力
接近してくる男達に対し、エイダは鞄から取り出した水晶をかざした。
水晶が光を放ち、前面を覆う障壁を生み出して男達を阻む。
咄嗟の防御に成功したエイダは自慢げに高笑いする。
「ふはははははははは! こんなこともあろうかと自衛手段は用意しているのだよっ! あまり賢者を舐めないでくれ!」
挑発的な態度だが、彼女は冷や汗をかいている。
少しでも動きが遅れていれば、間に合わずに突進されていただろう。
何気に紙一重のやり取りだったのだ。
それを虚勢で誤魔化している。
エイダの持つ水晶は魔道具の一種だ。
内包する魔力を消費することで障壁を発生させている。
魔術師なら己の魔力を流すことで再使用できるが、エイダは常人である。
自在に補充できえうだけの魔力は持っておらず、半ば使い捨てに近い運用になっていた。
だからこそ、水晶を構えるエイダに小声で指摘する。
「妥当な防御策だが、時間稼ぎにしかならないだろう。次はどうする」
「今それを考えているよ……っ!」
エイダは焦った様子で答える。
切迫しているのは明らかだった。
その直後、障壁が破壊されて男達が再び迫ってくる。
エイダは短杖を突き出すと、覚悟を決めた表情で告げる。
「賢者の力を味わうといい」
短杖から青い光弾が迸った。
男達は悲鳴を上げて攻撃を防ぐ。
連続で放たれる光弾を前に、彼らは停滞を余儀なくされていた。
前に進めず防戦に徹している。
本来、杖は魔術の補助具だ。
しかしエイダの使う短杖は違う。
内蔵された術式だけを起動する構造で、魔力も充填分を使っているようだった。
ようするに障壁の水晶と同じ魔道具である。
それをエイダは、あたかも無詠唱の魔術のように操っていた。
賢者を騙り続けるために磨いた技能だろう。
そのうち男の一人が盾を使って光弾の連打を突破した。
魔力による身体強化で加速し、勢いよくエイダに体当たりを炸裂させる。
押し倒されたエイダは地面にぶつかって呻いた。
「ぐおっ」
馬乗りになった男が短剣を振り下ろすも、割り込んだ障壁に食い止められる。
エイダが水晶を再使用したのだ。
地面に落ちた短杖は未だ光弾を放っており、他の男達を妨害している。
「さっさと死ね!」
「ヴィブル! やっぱり無理だぁ! 早く助けてくれぇっ!」
エイダが情けない声を上げている。
短剣の刃が今にも彼女の首を切り裂きそうだった。
障壁に入った亀裂がだんだんと軋んで大きくなっていく。
(よくもこれで生き延びてきたものだ……)
思わず呆れてしまうが、実情は既に知っている。
エイダは絶えず暗殺者の襲撃を受けており、手持ちの魔道具が枯渇していたのだ。
彼女は図書館を訪れた段階で限界寸前だった。
どうしようもないからこそ、命懸けで蔵書狂を味方にしようと試みたのである。
そんなエイダによって、この局面での襲撃は致命的だった。
使える魔道具は残り少ない。
本人の戦闘能力などたかが知れている。
端的に述べると、自力で掴める勝機は皆無に等しかった。
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