第77話 死は糧となる
戦いは決着した。
騎士団長との死闘になるかと思いきや、ルナの奇襲で一気に終わったのだ。
エイダが驚いていないところを見るに想定内の展開だったのだろう。
むしろ彼女がルナに指示を送ったようだ。
(さすがだな。この短時間で作戦を組んでいたとは)
結界の完成直後、ルナは気配を消して騎士団長の背後に移動した。
騎士団長はエイダに気を取られて反応が遅れ、無防備に殺される羽目になった。
エイダから一切の殺気がないので油断したのだろう。
それも狙いだったに違いない。
エイダの話術とルナの隠密術。
二人の連携がすべてを制したのであった。
事態の全貌を把握したところで、満足げなエイダに指摘する。
「対話はどうした。平和的に解決するのではなかったのか」
「いやはや、残念ながら無理だったね。ベンジャミン君が思ったよりも短慮だった。彼の底も浅いようだし、何より興味が薄れたから効率面を優先してしまったよ」
エイダはあっさりと言ってのける。
飄々としているが、その眼差しは極めて冷酷だった。
既に思考を切り替えており、後悔や反省は見受けられない。
(此度の戦いでさらに変容したか)
非暴力を選ぶ良心。
最適解を知る打算的な頭脳。
自他の破滅を厭わない過剰な知識欲。
それらがエイダの中で絡み合い、奇妙な均衡を保っていた。
常に揺れて偏りを生みつつ、実際の行動へと反映されている。
ただ甘さを捨てただけではない。
理性と本能が共依存を引き起こしていた。
ある意味では最も性質が悪いだろう。
いずれの要素にも振り切らないせいで一貫性に乏しく、何をしでかすか読みにくい。
それでいて本人の中では筋が通っている。
加えてルナという暴力装置の手綱を握り、ほぼ完璧に制御していた。
エイダは予測不能な傑物に至ろうとしている。
考察の途中、騎士団長の生首を見る。
まさかこんな形で殺されるとは思わなかったろう。
せめて激闘の末に討たれると考えていたはずだ。
(相手が悪かったな)
エイダは覚醒しつつあった。
半端な甘さを振り払い、未知の力を身に付けている。
それを刺激したのだから自業自得ではあるのかもしれない。
情報収集のため、羊皮紙の腕を伸ばして騎士団長の生首に触れさせる。
すぐさま記憶という形で情報が流れ込んできた。
案の定というべきか、騎士団長は国王の裏の顔を知っていた。
それどころか忠実な配下として暗躍していたようだ。
一連の情報漏洩はこの男が主導していた。
特殊な感知魔術により、特定の相手の居場所や状態を認識できる能力を持っていたらしい。
距離が無制限なので見失うことが無く、国にとって厄介な存在を排除していたそうだ。
エイダのことも前々から調査していたようである。
魔爪の導示が何度も襲撃してきたのは、騎士団長が彼女の現在地を伝えていたからだった。
表向きは優秀な騎士で、裏ではそれ以上の活躍を見せる工作員だったのだ。
王国のさらなる腐敗を知った瞬間であった。




