第76話 攻撃宣言
話しているうちに室内を包む結界が完成した。
発動当初と比べて数十倍の強度はある。
さらには騎士団長の魔力も同程度に増大していた。
彼自身が何かした様子もなかったので、これも結界の影響なのだろう。
エイダは手を打って騎士団長に話しかける。
「さて、そろそろ準備はできたかな。時間は有限なのだからさっさとしてくれよ」
「……ふざけたことを言っていられるのも今のうちだ」
騎士団長が忌々しそうに鼻を鳴らす。
彼は両手を広げて自信ありげに発言する。
「強化結界だ。お前が国に提供した魔導書を参考に開発したもので、術式に登録した僕の力だけを大幅に引き上げてくれる。この時のために七日間をかけて準備させたんだ」
「ふむ、用意周到だね。策を巡らせる人間は嫌いじゃないよ。仲良くできそうだ」
「ふざけるな。お前と仲良くするわけがない」
エイダの軽口に、騎士団長は吐き捨てるように返す。
二人の仲が険悪であるのは事前に知っていたが、実際に見るとなかなかのものだ。
主義主張がとことん噛み合わず、出世争いも絶えなかったのだという。
大義名分を得てエイダを殺すことができる現状は、騎士団長にとって願ってもない機会であろう。
両者は無言で睨み合う。
その沈黙を破ったのはエイダだった。
彼女は声を張って呼びかける。
「いいよ、存分にやってほしい。ここではそれが最適解だ」
「……何を言っている?」
「君には関係ないよ。気にしないでくれ」
怪訝そうな騎士団長に対し、エイダは首を振って応じる。
腰に手を当てた姿からは一切の緊張が感じられない。
彼女は涼しい顔で微笑していた。
その態度に腹が立ったのか、騎士団長は剣の柄に手を伸ばす。
騎士団長は憎悪を晒して宣言した。
「――叩き潰してやる。余裕ぶった己の所業を後悔し、ろ……ろろろ……?」
発言の途中、騎士団長が唐突に奇声を発した。
首が徐々にずれて、胴体から離れた。
落下した頭部が床に激突して我々のもとまで転がってくる。
困惑した表情は、自身に何が起こったのか理解できていない様子だった。
屈み込んだエイダは生首に告げる。
「すまないね。君に関係のあることだったようだ」
騎士団長は返事をしない。
一度だけ瞬きをしたが、それきり動かなくなった。
手すりに持たれる胴体は、首の断面から鮮血を噴出していた。
その背後にルナが立っている。
彼女はこちらに手を振ってきた。
「言われた通り、存分にやったよー」
「さすがルナだね。素晴らしい手際だった」
「えへへ」
エイダに褒められたルナは照れ臭そうに笑う。
健気な雰囲気だが、彼女の手には短剣が握られている。
それこそが騎士団長の首を刎ねた武器であった。




