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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第73話 騎士団長

 正面扉とは違う経路から城内へと入る。

 どこも閑散としており、人の気配がほとんどしない。

 異様な静けさが漂っている。

 使用人等の人払いが徹底されているようだ。

 余計な被害を出さないように配慮しているらしい。


 腹を押さえるエイダは、期待の眼差しを騎士団へと向ける。


「食事会はないのかな。過酷な旅で空腹続きだったんだ」


 反応はない。

 エイダは悲しそうな顔をする。

 結局、それ以上は発言しようとしなかった。


 やがて我々は大きな広間に通された。

 中央まで歩いたところで、吹き抜けの二階から声が聞こえてくる。


「久しぶりだな、エイダ・ルース」


 声の主は、青い鎧を着た男だった。

 髪は透明感のある銀色で、目は深海のように蒼い。

 腰に吊るした剣は仄かに発光している。

 使い手の魔力に呼応しているのだろう。


 男は王国の騎士団長であった。

 国内でも有数の英雄で、エイダとも顔見知りだ。


 エイダは片手を上げて気楽に声をかける。


「やあ、ベンジャミン。最後に会ったのはいつだろう」


「三年前だ」


「よく憶えているね。君のことなんてどうでもいいから、すっかり忘れてしまっていたよ」


 エイダは唐突にそう言った。

 何気ない口調であったが、明らかに騎士団長を侮辱している。

 向こうも理解が遅れて呆けていた。


 実際、エイダの発言は真っ赤な嘘であった。

 彼女は騎士団長との接点を正確に記憶している。

 迷いの森での独白でも聞いたので間違いない。

 あえて忘れたふりをしたのは、騎士団長に対する挑発行為に他ならなかった。


 騎士団長の笑顔が凍り付いている。

 内面から滲む怒りを隠し切れていなかった。

 彼は一度だけ深呼吸をすると、滑らかな声で部下達に命じる。


「……皆、この場から離脱して結界の強化に回ってくれ。彼女達は僕が始末する」


 騎士団は一斉に動き出した。

 あっという間に広間から出て行くと、それきり息遣いすら聞こえなくなる。

 残されたのは我々三人と、吹き抜けから見下ろしてくる騎士団長のみだった。


 エイダは軽くため息を吐いてぼやく。


「始末とは物騒だね。私は国王と話をしに来ただけなのだが」


「闇の賢者と陛下を会わせるわけにはいかない。ここまで案内させたのは、絶好の舞台で命を奪うためだ」


 騎士団長は断言する。

 その言葉に迷いは見られなかった。

 彼は確固たる意志を備えている。

 話術で懐柔するのは不可能に近いだろう。

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