第72話 招かれる一行
エイダが前に進み出る。
それだけで騎士団に緊張が走った。
一切の魔術を使えず、重傷を負っているだけの常人と対峙したことで、彼らは無視できない恐れを抱いているのである。
実情を知る身からすると不可解な状況だった。
それを生み出したエイダは、騎士団の面々に問いかける。
「さあ、どうする。ここで殺し合ってみるかね。言っておくが私は強いぞ。私の仲間も強い。戦いを挑むのは賢明ではないと思うよ」
エイダはどこまでも強気だ。
この場で最も非力であるにも関わらず、場の主導権を完全に握っている。
彼女の話術は、多人数が相手でも有効なのだ。
感情が伝播する点も含めると、むしろ普段より効果を発揮しているかもしれない。
誰も応答しないかと思いきや、一人の騎士が冷静に発言した。
「我々はお前と争うつもりはない」
「本当かい?」
「攻撃するなと厳命されている」
騎士は口調を変えずに断言する。
他の者達が驚いている様子はないので、実際に攻撃禁止の命令は出ているのだろう。
やり取りする騎士が我々に向けて告げる。
「闇の賢者エイダ・ルース。国王陛下がお呼びだ。ついてこい」
前方の騎士団が踵を返し、城の方角へと歩き始めた。
後ろの兵士達も進み出して、我々を急き立ててくる。
エイダは声を落として嬉しそうに言う。
「作戦は成功だ。無血で話し合いができそうだよ」
「この後の展開は考えているのか」
「まあ、そこは……うん。きっとなんとかなるさ。私は逆境に強い性質なんだ」
目を逸らしたエイダは、歯切れの悪い答え方をする。
己に言い聞かせているような気がするが、果たして大丈夫なのか。
彼女の話術については未知数な面が多いため、目視による観察では意図を読めそうにない。
ほどなくして城の敷地内に入った。
橋を越えて中庭を進む。
事前に決めてあったのか、先導する騎士団の一部が隊列から外れてどこかへと去る。
おそらくは何らかの配置に付いているものと思われる。
そのような中でも呑気に歩くエイダは世間話を振ってきた。
「ヴィブル、君は王城に招かれたことがあるかい?」
「招待はされたがすべて断ってきた。興味がない。そもそも迷いの森から出るつもりがなかった」
「うん、君らしい答えだね。予想通りだよ」
エイダはなぜか肩をすくめてみせる。
隣ではルナも同じ動作をしていた。
立場や素性を踏まえると、二人とも城に招かれた経験があるのだろう。
エイダは子供に諭すような口調で意見を述べる。
「俗世に関わるのも悪くないよ。今回の旅で考えも変わったんじゃないかな」
「……お前に振り回されてばかりだった」
「いいじゃないか。たまには記録だけではなく、自ら歴史の一端を担うのも気分転換になる」
エイダは平然と開き直ってみせる。
彼女の言葉には否定できない部分もあったので、黙って流すしかなかった。




