第70話 闇の賢者に対する歓迎
その後、兵士の案内で王都内へと踏み込む。
警戒する彼らは我々を包囲しながら進み始めた。
いつでも攻撃できるように武器を握っており、微塵も信頼されていないのが分かる。
門前で戦いが起こらなかったのは、下手に刺激すべきではないと思われたからだろう。
表向きは強大な力を持つ闇の賢者なのだ。
少数の兵士が敵うはずもなく、捨て身で仕掛けようとは考えないはずである。
(或いは国王が案内するように事前伝達を行っていたのか)
可能性としては高い。
真相を明らかにするため、兵士の記憶を調べておきたいところだが、ここは穏便に進めたいので自重する。
それがエイダの方針なのだ。
勝手に崩すわけにはいかなかった。
大通りを進む中、四方八方から罵声が飛んでくる。
王都の民によるものだ。
彼らは容赦なく石を投げ付けてくる。
慌てて兵士達が止めているも数が多すぎて間に合っていない。
エイダに当たりそうな分はルナが弾いていた。
渦中の人間であるエイダは、手を広げて呑気に笑う。
「ははは、王都でも私は人気者だね。皆が注目しているよ」
「誰に対する嫌味だ」
「嫌味じゃないよ。本心からの言葉さ。どんな形であれ、才覚を持つ人間は存在を周知させる。今の私は汚名のようだがね」
エイダは爽やかな表情で述べる。
皮肉が込められているのは明らかだが、それを言及する者はいない。
民衆の罵詈雑言のせいで、近くにいる兵士達も会話内容を聞き取れていないだろう。
ちょうどいいので気になっていたことをエイダに尋ねる。
「今更だがこの方法で良かったのか。気付かれないのは不可能にしろ、内密に進めていくこともできたはずだ。こうして姿を晒して連行されることで、闇の賢者という評判は拭い難くなった」
「別に構わないよ。やましいことなんて無いのだから。誠実にいこうじゃないか」
エイダは躊躇いなく言った。
さすがに看過できなかったので即座に指摘する。
「やましいことはあるだろう。とぼけるな」
「ふふ、そうだったね」
エイダは思い出したように笑って舌を出す。
本気か冗談か。
彼女の演技は判断し難い部分がある。
その隣で石を防ぎ続けるルナが顔を顰めた。
彼女は民衆の隠れる建物を凝視しながら問う。
「見せしめに何人か殺しちゃう? エイダちゃんを馬鹿にするのは許せないよ」
「いや、大丈夫だよ。気遣ってくれてありがとう。彼らは情報に踊らされているけど、悪意があってやっているわけじゃない。ただ怖いんだ」
エイダがルナの頭を撫でる。
ルナはそれだけで目を細めて大人しくなった。
まるで小動物のようだ。
全方位から投げかけられる敵意を受けて、エイダは静かに語る。
「特別な力を持つ君達と違って、私は平凡な一般人だ。だから彼らの気持ちが分かる。無知は不安と恐怖を生み、さらには憎悪と拒絶を引き出す。自分達では何も抗えず、かと言って黙っていることもできないから、ああやって心を紛らわせているんだ」
「……なんだか、かわいそうだね」
ルナの率直な感想を聞いて、エイダは小さく苦笑した。
それから彼女は頷く。
「否定はしないよ。彼らの行動は間違いなく愚かだ。だけど同情の余地もあるということだね、うん」
エイダの横顔には様々な感情が揺らいでいた。
その正体は図れない。
彼女の見据える先に何があるのか、尚更に興味が湧いた。




