第7話 蔵書狂は甘やかさない
夕暮れが差す中、迷いの森から抜け出した。
その先には赤焼けた草原が延々と広がっている。
ただし、我々を阻むように立つ男達がいた。
武器を携える彼らは、敵意を隠さずに告げる。
「止まれ」
代表らしき一人が前に進み出る。
男は憎悪に歪んだ顔で尋ねた。
「賢者エイダ・ルースだな」
「だとしたらどうする?」
「魔族繁栄のために死んでもらう」
男は断言した。
エイダの顔に緊張が走る。
歯を食いしばり、僅かに後ずさった。
視線は逃走経路を探しているが、この状況から離脱するのは困難だろう。
身構える男達は揃いのローブを纏っている。
胸元の刺繍には見覚えがあった。
(あの紋章……魔爪の導示か)
古代から続く宗教団体で、魔族信奉の過激派として有名な組織だ。
世界は魔族に統治されるべきという思想に染まっており、それを阻害する人間を暗殺することを生業としている。
エイダの語る半生にも登場していた。
世間的には賢者である彼女が魔族撲滅を企んでいると考えて、これまでに幾度も襲撃をしてきたらしい。
今回もその一環だろう。
(待ち伏せしていたのか)
迷いの森の中まで追跡すると、見失う可能性が出てくる。
準備を整えて待ち構えるのは妥当な策と言えよう。
きっと森を囲うように点々と人員を配置しているに違いない。
顔を曇らせるエイダは、悔しそうに男達を睨む。
「くっ、姑息な……」
口は動かせど、それ以上は何もできない。
彼女はこちらを一瞥すると、すぐさま助けを求めてきた。
「ヴィブル、こいつらを倒してくれ!」
「断る」
「えっ!?」
エイダが信じられないとでも言いたげに見つめてきた。
その視線を受け流して説明する。
「戦闘を期待されても困る。この身は知識の集合体と言っただろう」
「で、でも」
「まずは自力で抗ってみろ。それも贖罪になる」
「……私はそこそこ弱いのだが?」
「知っている。だから死力を尽くして足掻け。偉大なる賢者の第一歩だ」
励ましも込めて応じると、エイダの表情に諦めが滲んでくる。
十年の対話でこちらの性格を知っているからこそ、論破できないと悟ったのだろう。
肩を落としたエイダは、鞄を探り始める。
一方、魔爪の導示の男達が臨戦態勢から動き出した。
「魔術を使う前に殺せェッ!」
ローブを着る男達が一斉に飛びかかってきた。




