第68話 反撃の兆し
振り返るとエイダとルナが固まっていた。
二人は呆気に取られている。
黒衣の集団の惨状を目の当たりにして思考停止に陥っているようだ。
そんな彼女達のもとへ移動して促す。
「どうした。早く行くぞ」
「いや、ここまで圧倒的な戦いを見てしまうとね……」
エイダは困惑した様子で答える。
いつも饒舌な彼女にしては言葉に詰まっている。
絶望と緊張から解放された反動もあるだろう。
上手く心境を言い表せないようだ。
そんなエイダを観察していると、ルナが腕を引っ張ってきた。
小首を傾げた彼女は、遠慮がちに意見を述べる。
「もっと戦闘に参加してもいいよ?」
「断る。暴力は最終手段だ。なるべくお前達で乗り越えろ」
「うーん、厳しいね」
「甘い対応を求めるなら他を頼れ」
ルナは残念そうにしているが、別に本気で言ったわけではないようだ。
日頃のやり取りからそれが叶わないことは察していたのだろう。
その上で戦闘参加を頼みたくなる気持ちも理解できる。
落ち着いていつもの調子となったエイダが背中を叩いてきた。
彼女は土で汚れた顔で微笑する。
「とにかく助かったよ。私達だけでは対処が難しかった。君の力を借りてしまったことは反省事項だが、それはそれとして感謝している」
「そうか」
暴力に依存する傾向は見られない。
自力で解決できなかったことをエイダは本気で悔しんでいる。
それでいい。
彼女ならばさらなる成長への糧にできるはずだ。
他力本願のエイダはいなくなり、偽りの賢者から脱却しつつあった。
だからこそ、こちらも存分に力を振るうことができたのである。
歩き出したエイダは、黒衣の集団の死体を漁り始めた。
彼らの遺品が目当てらしい。
街や村に立ち寄れない状況なので、少しでも有用な道具が欲しいのだろう。
その辺りの抜け目のなさは流石といったところか。
傷だらけで死体を探るエイダの後ろ姿は、不思議と活力が漲っていた。
遺品を集める彼女は不敵な笑みを湛えて語る。
「国王は強い手駒を失った。いよいよ暴力では敵わないと悟っただろう。つまり交渉の道も視野に入れたはずだ」
「ここからがお前の出番というわけか」
「その通り。誰に喧嘩を売ったのか、国王陛下に再確認してもらおうじゃないか」
エイダは嬉しそうに述べる。
彼女の横顔からは、並々ならぬ執念と不屈の闘志が感じられた。
それこそが賢者エイダの本性――その側面の一つだった。




