第67話 追い詰められていく
ゴブリンの面の男がこちらを睨む。
冷たい憎悪の視線が突き刺さってきた。
男は乾いた声で宣告する。
「説教は不要だ……死ね」
その直後、男の仮面が黒く染まって穴となった。
穴は凄まじい勢いで周囲の空間を吸い始める。
仮面に仕込まれた魔術が発動したのだ。
(これは封印術か。道連れにするつもりだな)
樹木が浮かんで大地がめくれ上がり、そのまま仮面の穴へと引きずり込まれていく。
穴の先は見通せず、真の闇がどこまでも広がっていた。
ゴブリンの面の男はこれを狙っていたらしい。
戦闘面で太刀打ちできないことを想定し、蔵書狂を封印する手筈を整えていたのである。
分析する間にも、羊皮紙の身体が仮面の穴に飲み込まれていく。
吸引力に対抗できるだけの膂力は持ち合わせていない。
ひとまず部分的に切り離すことで退避する。
知識の欠損はない。
穴に呑まれたのはすべて複製情報だ。
あとはなるべく遠くへ移動して落ち着くのを待つ。
やがて封印術の効力が途切れて、ゴブリンの面の男は倒れ込んだ。
術の反動か、首から上は跡形もなく消えている。
この状態でも辛うじて記憶は残っているので、羊皮紙を伸ばして取得しておく。
精神魔術で記憶が封印されていたが、容易に崩すことができた。
そうして手に入れた情報を総括する。
まず黒衣の集団は、王国の秘密組織らしい。
正式名称はなく、表向きの戦力である騎士団から引き抜かれた者達で構成されていたようだ。
汚れ仕事を全うできる人間だけを厳選しており、王国戦力の中でも一級の実力者揃いだったという。
薄々勘付いていたが、彼らはほぼ全員が魔人だった。
改造手術で肉体を強化し、魔術適性を底上げしていたのだ。
だからこそ高度な術を連携して扱うことができていた。
魔爪の導示が通用しないと悟った国王は、秘密組織を使ってエイダを殺しに来たのであった。
(国王はかなり追い詰められているようだ)
最高戦力を投入せねばならないと判断する状況にはなっているらしい。
そして肝心の戦力も返り討ちになって壊滅した。
秘密組織はまだ王都にも残しているようだが、このままでは二の舞になるだろう。
壊滅の報は間もなく国王に伝わるはずだ。
増援を送ったところで無意味であるのは理解したに違いない。
エイダは王国全域で指名手配されているが、一方で国王も焦っているはずだ。
向こうに残された策は少ない。
他国に助けを求める猶予もない以上、新たな戦力を用意するのも難しい。
両者の争いは佳境に達していた。




