第65話 魔術の否定
黒衣の集団は魔爪の導示ではないらしい。
ただし、浅くない繋がりがあるようだ。
国王の主導する別動隊か何かだろう。
(まあいい。詳細はすぐに分かる)
交渉が無駄だと悟ったのか、黒衣の集団が不意に動き出した。
彼らはほぼ同時に詠唱を始める。
多人数による特殊な術式が紡がれて、循環する魔力が瞬時に高まっていく。
連携した強力な魔術だ。
こちらをまとめて始末するつもりのようである。
黒衣の集団の判断を察し、この場における最適解を導き出す。
(面倒だ。ここは一気に潰すか)
もはや悠長にやる意味もない。
彼らの殺意は全開だ。
術が完成すれば、問答無用で我々を抹殺するに違いない。
そうなるとエイダを守るのがさらに厳しくなる。
黒衣の集団が術を発動する直前、羊皮紙の身体を全方位へと拡散させた。
人型を失った羊皮紙が大地や木々を埋め尽くす勢いで突き進んでいく。
物理法則を逸脱した濁流が、周囲を押し流す勢いで浸蝕する。
先手を取られたことで、黒衣の集団は術を中断した。
構築した術を維持しつつ、一部の者が術を切り替えて防御を図る。
大地が生き物のように隆起し、表面を魔力が覆って分厚い壁となった。
それは高位魔術の連打を凌げるような強度を誇る防壁だった。
瞬時に発動したにしては最高峰と言えよう。
少しの滞りもなく、ほぼ万全な反応であった。
もっとも、そのような策など関係ない。
所詮は人間の規格における行動だ。
伸ばした羊皮紙を防壁に巻き付けて術式を分析し、根本から改竄して無害化する。
魔力を帯びた土の壁は端から崩壊していった。
強固な防御が為す術もなく削れていく。
ここで初めて黒衣の集団の間に動揺が見えた。
さすがに一瞬で突破されるとまでは思わなかったようである。
黒衣の集団は追加で防御魔術を張る。
同じ術を重ねることで強化していたが、それも徒労に過ぎなかった。
羊皮紙は触れただけであらゆる術を解き明かして破壊する。
この攻防に優劣はない。
魔術のぶつけ合いとは根底から異なるのだ。
羊皮紙は蔵書狂は権能そのものである。
知識――広く言えば記憶や情報を支配する力を宿している。
奪うも与えるも自在であった。
魔術は知識の集大成で、こちらからすれば格好の獲物だ。
接触を条件に操るのは造作もない。
さすがに不味いと考えたのか、黒衣の集団は全力で防御を試みた。
茂みに隠れていた者も総動員されて、矢継ぎ早に魔術が構築されていく。
次々と分解されることも厭わず、彼らは羊皮紙に拮抗する速度で守りを展開するのだった。




