第60話 逆境の道を往く
引き続き三人で移動を続けて王都を目指す。
現在地から徒歩だと十日ほどの距離だ。
馬車が使えれば短縮できるが、目立つので控えている。
国内の様々な勢力がエイダの命を狙っているのだ。
移動手段の一つを取っても安全策選ぶべきであった。
エイダの主導で街や村を避けて進む。
迂回を強いられる場面も多く、通常より時間がかかっていた。
居場所を悟られないよう細心の注意を払っており、接敵を何よりも控えているのが分かる。
効率面で言えば、堅実な策は他にもある。
それを採用しなかったのは、エイダが他者の犠牲を疎んでいるからだった。
彼女は己の窮地を悟りながらも、なるべく穏便な道を選んでいる。
暴力の誇示を許容した一方で、そこに依存しない方針を立てていた。
その甲斐もあり、最初の賞金稼ぎとの戦闘の他には何も起こっていない。
以前ならこれをエイダの人間的な甘さと解釈したが、今は違う印象を抱いている。
深く重い葛藤を経て、彼女は非情な決断もできるようになっている。
いざという時には人道を放棄し、誰よりも残酷になって目的遂行に動くことができるのだ。
故にこれ以上は口を挟まない。
山道を歩く途中、隣を進むエイダに話しかける。
「怪我の調子はどうだ」
「緩やかに悪化している感じだよ。適切な処置ができていないからね」
顔に汗を滲ませるエイダは、少し血色が良くなかった。
山に入ってから口数が露骨に減っているため、喋るのも辛いのだろう。
元より彼女の身体能力は高くない。
ほとんど休みなく旅を続けるのは、万全な身体でも厳しいはずだ。
やり取りを見ていたルナは少しも息を切らしていない。
彼女は少し考えてから、自分の指をエイダに差し出した。
「私の血、使う?」
「いや、大丈夫だよ。一時的でも君の能力を落とすわけにはいかない。気遣ってくれてありがとう」
エイダは笑顔を作って応じる。
両脚はかなり前から震え、呼吸は大きく乱れている。
それでも休憩したいと言い出さないのは、一刻も早く国王をどうにかしなければならないからだ。
強烈な疲労感を目的意識と執念だけで捻じ伏せている。
(辛抱強いな。立っているのも厳しい状態のはずだが)
逆境が人を強くする。
その中でもエイダは飛躍的に変化した。
利己的な動機から偽りの賢者になった彼女が自己犠牲を厭わないとは、何とも因果な話である。




