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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第59話 成長の兆し

 大地から生えた影の手が激しく揺らめく。

 その光景を目の当たりにした賞金稼ぎ達は恐慌状態に陥った。

 右往左往する彼らは、各々が喚いて逃げ回る。


「うおおおおおあああああああぁっ!?」


「い、嫌だ! 死にたくない!」


「助けてくれぇっ!」


 とうとう賞金稼ぎは逃げ出した。

 徐々に追い詰められる状況に耐え切れなくなったのだろう。

 死体を蹴飛ばしながら、彼らは街の方角へと消えていく。

 そして二度と戻ってくることはなかった。


 用心深く見守っていたエイダは深呼吸をする。

 そしていきなり嘔吐した。

 多量の胃液に混ざって血が地面に滴る。


 咳き込むエイダは口の中に片手を入れた。

 指先で何かをつまむと、無造作に引きずり出す。


 現れたのは黒い木の根だった。

 それは魔道具の一種で、舌に植え付けると影を操作できるという代物である。

 本来は強力な武器なのだが、魔術適性を持たないエイダが使っても殺傷力は皆無に等しい。

 精々が影の形を変えるだけだろう。


 それが却って良かったのだ。

 実際、影の手は賞金稼ぎを一切傷付けていなかった。

 エイダは彼らを脅かして逃亡させるのが狙いだったのである。

 自らの非力な部分を利用して、上手く誤魔化したのだった。


 木の根をつまむエイダは、気分が悪そうに水を飲む。


「ふう、酷い味だ。あまり使いたくないね」


 直前までの禍々しい雰囲気はもう感じられない。

 演技とは言え、切り替えが自在すぎる。

 さすがは偽りの賢者だ。

 人々を騙す一流の技能を持ち合わせている。

 戦闘関連の才能には恵まれなかったが、努力で補える分野は徹底していた。


 息を抜くエイダを見て、気になっていたことを指摘する。


「名実ともに闇の賢者になったがいいのか」


「構わないさ。私が危険人物だと広まれば、懸賞金目当てで挑む者も減るだろう」


「他者の犠牲を気にしている場合ではないと思うが」


「倫理や良心の喪失は、人間性の欠如に等しい。どれだけの窮地でも、私はなるべく人間でありたい」


 エイダは神妙な面持ちで語る。

 その声音に虚偽は含まれていない。

 正真正銘、彼女の本音だった。


 エイダは散乱する死体を一瞥し、痛ましい表情を見せる。

 彼女は悔しげに唇を噛んで呟いた。


「……犠牲無き解決は不可能だと分かっている。それでも進めねばならない。私は彼らの命を背負っている」


 此度の出来事で、エイダとルナは幾人もの賞金稼ぎを殺害した。

 本当は殺したくなかったのだろう。

 無血による解決が不可能と悟り、最低限の犠牲で済むようにしたのである。

 犠牲者を出したからこそ、他の賞金稼ぎ達を逃亡させることができた。


 エイダとしては心苦しい結果に違いない。

 彼女に真なる実力があれば、さらに平和的な策も生まれていた。

 妥協せざるを得なかったのは、ひとえに実力不足とも解釈できる。

 それを恨めしく感じていることだろう。


 成り行きを眺めていたルナが、じっとエイダを見つめる。

 ルナは不思議そうな顔で言った。


「エイダちゃん、変わったね」


「状況的に停滞していられないのだよ。これまでの稼ぎで悠々自適に暮らすだけでよかったのだが、そうも言っていられなくなってきた」


 彼女の言葉には様々な感情が込められていた。

 歩き出すエイダは、手を打って落ち込んだ気分を持ち直す。


「国王の野望を止めよう。魔爪の導示の手から世界を救うんだ」


 直前までの悲壮感は霧散していた。

 それを引きずっても意味がないと理解しているのだろう。

 立派に成長したものだ。

 堂々と進むエイダの背中からは、私欲と保身は感じられなかった。

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