第58話 非情な宣告
賞金稼ぎ達は怯み、露骨に攻撃を躊躇っている。
ちょうど先ほどまでのエイダと似たような状態だった。
仲間の惨たらしい死に様を目の当たりにして、狭まっていた視野が正常に戻りつつあるらしい。
動揺が精神魔術の効力を緩めている。
(進退が窮まっている。非情な殺人が彼らの理性を引き戻したのだ)
例えるなら、冷水をかけられて酔いが醒めた感覚に近い。
引き戻された理性は恐怖を呼び起こし、無謀な行動に制限をかける。
最も大きな点は、彼らに対話の可能性を生み出したことだろう。
非情ながらも的確な一手を打ったエイダは、冷酷さを全面に出して賞金稼ぎ達に問いかける。
「次は誰が死にたいのかね?」
その言葉に彼らは凍り付く。
戦慄と後悔が色濃く渦巻いていた。
エイダは畳みかけるように嘲笑してみせる。
「クク、一生懸命に結界を壊す君達を眺めるのは愉快だったよ……そちらの気分はどうかな」
答える者はいない。
ここで威勢よく言い返せば流れも多少は変わったろうが、それだけの度胸はないようだ。
エイダが賞金稼ぎの一人を指差す。
次の瞬間、ルナが何かを投げる。
指を差された賞金稼ぎが奇妙な声を上げた。
「ぎゅぶっ」
その額からは小さなナイフが生えている。
白目を剥いた賞金稼ぎは絶命し、他の者達は驚いて飛び退いた。
エイダは深々とため息を吐く。
「まったく情けない。私の首にどれだけの価値が付けられたか知らないが、この人数で仕留められると思ったのかね。ちょっと慢心が過ぎるのではないかな」
賞金稼ぎ達は尚も黙り込む。
迂闊な発言が死を招くと理解しているのだ。
もっとも、無言が無難な反応ではない場合もある。
不気味な静寂に舌打ちしたエイダは、煩わしそうに命令を下す。
「ルナ、追加で三人だ」
「はーい」
気楽なかけ声に合わせてナイフが投擲される。
三本のナイフは同じ数の人間を殺害した。
首や胸に刃を受けた賞金稼ぎはそれぞれ倒れて動かなくなる。
死体とぶつかった男が泣き顔で両手を上げた。
「待ってくれ! 俺は降参するッ! だから命だけは――」
発言の途中、壺から放たれた結界の破片が男の顔面を叩き割った。
エイダは視線を鋭くして述べる。
「ふざけるな。許されると思っているのかね。君達の前にいるのは闇の賢者だぞ」
賞金稼ぎ達は息を呑む。
もう誰も逆らうことができなかった。
降参しても殺されると分かってしまったのだ。
かと言って反撃に出たところで、ルナの餌食となるのは目に見えている。
追い詰められた賞金稼ぎ達を前に、エイダは小さく肩をすくめた。
「まあ、私にも慈悲の心はある。意地汚く逃げ惑う者を皆殺しにするほど非情じゃない」
エイダが不意に口を開けて舌を出す。
舌は真っ黒に染まり、表面が不規則に蠢いていた。
唇を撫でたエイダは宣告する。
「――ここから先は祈り、懺悔したまえ。」
地面が揺れ動く。
困惑する賞金稼ぎの足下から、無数の影が噴き上がった。
それらは人間の手の形となって宙を飛び交い始める。




