表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/115

第56話 一線を越える

 ルナの提案を聞いたエイダは、唇を噛んでさらに悩む。

 彼女は頭を抱えて呟いた。


「本当にそれでいいのか? しかし他に手段も……」


 エイダは見るからに憔悴している。

 普段の印象からは程遠い状態だった。


(珍しい。何を躊躇っている)


 エイダは別の解決策を模索しているが無駄なことだ。

 ルナの提案こそが最適解である。

 周囲の賞金稼ぎを抹殺し、速やかにこの場を離脱して今後の作戦を決めるべきなのだ。


 一連の事態は国王の策略に違いない。

 行動を遅らせるほど向こうが有利になってしまう。

 エイダもそのことはよく理解しているだろう。


「なぜ逡巡している。もう覚悟はできているはずだろう」


「即座に決断なんてできないよ……暴力的なやり方はなるべく避けたい。そうなると彼らに落ち着いてもらうしかないんだ」


 弱々しい口調でエイダは反論する。

 彼女は賞金稼ぎの殺害を露骨に拒んでいた。

 端々の言動からその本心が透けて見えてくる。


 いくら欲深いとは言え、賞金稼ぎはただの人間だ。

 エイダのことを悪党と思っているからこそ、倒そうとして襲いかかってくる。

 賞金目的という邪念はあれど、それ以上の悪意は存在しなかった。

 ようするに、ごく普通の人間の命を奪うことに躊躇いを感じているわけだ。

 魔爪の導示や魔族とは根本的に事情が異なるのである。


 加えてエイダは、ここまでいくつもの困難を渡り歩いてきた。

 そのたびに紙一重で勝利している。

 今回もどうにかできるのではないかという考えがあるのだろう。

 経験則から生まれた期待が、却って判断力を鈍らせている。


(成長したが故の弊害か)


 もっとも、暴力を避ける方針に縛られているのは、何もエイダだけの責任ではない。

 彼女の助手となる時になった当初、こちらから釘を刺したからだ。

 紆余曲折はありながらも、それがまだ心の内に色濃く残っているようであった。


 エイダは情けない顔で助けを求めてくる。


「ヴィブルはどうしたらいいと思う?」


「好きにしろ。すべてはお前の選択次第だ」


「しかし……」


 エイダは言い淀む。

 答えはとっくに導き出せているはずだ。

 あとは進むための勇気だけである。

 過去の決意とはまた異なる方向性だが、自らの力で掴まねばならない。


 そんな彼女を一喝する。


「お前は苦難を経て多くを学んだ。もはや口だけの詐欺師ではない。他人任せの悪癖を克服し、清濁を飲んだ手腕を発揮できる。形はどうあれ、英雄の一端を担っていると評してもいい」


「ヴィブル……」


「己を信じてみろ。その決断を否定する者はいない。理性と暴力を御すのだ」


 本心からの言葉をただ告げる。

 すると、エイダの眼差しに変化が生じた。


 巡る葛藤が薄れて、狂気に等しい執念が宿る。

 危うさを孕みながらも、それは強烈な光を帯びていた。

 焦りや迷いが消えて研ぎ覚まされた感覚が強調されていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ