第52話 エセ賢者の成長
翌日、坑道を脱出して王都へと向かう。
魔爪の導示の頭領が王だと判明したことで、明確な行き先と方針が定まった。
各地を巡って何か行動を起こすより、直接対決に持ち込むのが手っ取り早いという結論に至ったのだ。
判断したのはエイダであった。
当の彼女は移動しながら悩み続けている。
常に難しい顔をしており、食事や睡眠も満足にできない。
思考の妨げになると考えているのか、口数も極端に減っていた。
(この後の展開を予測しているのか)
エイダが才能を発揮するのは主に頭脳面だ。
むしろそれ以外は常人並みで、考え抜くことが唯一の役目と言ってもいい。
山岳地帯を進む途中、ほぼ無言を貫くエイダに尋ねる。
「何か閃いたか」
「ふむ……どうだろうね。暴力による解決は簡単だけど、それ以外となると途端に難しくなる。ヴィブルのおかげで情報が揃っている分、有利すぎるとは思うのだがね」
エイダは肩をすくめて語る。
今回の目的は国王の殺害ではない。
求めているのは穏便な解決方法だった。
相手を交渉の席に座らせるための暴力は必要だが、決定打は別に用意せねばなるまい。
魔人との戦いで新たな情報を得られたのは大きい。
エイダの脳内ではそれらの整理と分析が行われているのだろう。
そうして新たな道のりが構築されている最中に違いない。
今のところ想像も付かないが、何らかの予想図はあるはずだ。
期待を抱いていると、エイダは冗談交じりに嘆息した。
「いやはや、戦いが激化すると己の無力さを痛感するよ。そろそろ身が持たなくなりそうだ」
「死なない限りは進み続けられる。諦めるな」
「はは、前向きな言葉を貰えて嬉しいよ。君の知識で治療を施してくれたら、もっと感謝するのだがね」
「知識を持っているだけだ。技能面では頼ってくるな」
「分かっているとも」
頷くエイダの横顔は以前までとは別人である。
数々の戦いで負った傷のせいで弱々しく見えるものの、内面の成長は計り知れない。
焼け落ちた別荘から治療系の魔道具や薬を回収したことで、エイダは長距離を歩ける程度にまで回復していた。
未だ満身創痍と称しても差し支えない状態であるが、鎮痛剤でなんとか誤魔化している。
悠長に休んでいる暇はないのだ。
安穏な日々が欲しければ、一連の騒動を止めなければならない。
ルナの血を使った治療なら回復も速いが、あれは一時的に彼女自身の不死性を弱めてしまうらしい。
実質的な戦力低下なので軽率に使うべきではない。
故にエイダも我慢し、地道な治療だけに頼っている。
(表面上は愚痴や泣き言を洩らすが、精神的には落ち着いている。相変わらず人間離れした胆力だ)
天性のものではない。
成長して会得した性質だ。
まったく大したものである。
慢性的な苦痛を押し殺して、エイダは涼しい笑みを浮かべた。
「ヴィブルとルナ、君達がいればまず負けないさ。なんとか上手い着地点を見つけるから協力してほしい」
「うん、任せて」
「助手として可能な範疇で力を貸そう」
返答を聞いたエイダは嬉しそうに頷く。
善人とは言い難い彼女だが、少なからず人徳はあるようだ。




