第47話 癒しの力
エイダは滝のような汗を流す。
震える手で追加の錠剤を服用すると、両手足を広げて寝転んだ。
身体を起こしているのも辛いらしい。
彼女は笑みを浮かべてルナに言う。
「君が駆け付けてくれることは確信していた。だから全力で時間稼ぎに徹したよ。いつ復活するか分からないから、そこに関しては賭けだったがね」
ルナが半不死身であることをエイダは知っていた。
石炭の山に埋もれたルナが生きていると考えて、坑道による遅延戦術を選んだのだろう。
不確定要素が多い中で決断できるとは、大した度胸である。
エイダのことなので、他にもいくつか予備の作戦を用意していたものと思われる。
それにしても大胆な選択には違いない。
ルナの到来を察知できたのは、片眼鏡で魔力を視認したからだ。
魔人との戦闘中に気付いたからこそ、架空の呪術を謳って注意をそらしたのである。
追い詰められつつも、的確な心理操作で逆転の隙をこじ開けていたのだった。
(エイダの一連の反撃により、魔人は他者の魔力に鈍くなっていた。すべて計算通りだったのか)
その策略には感心せざるを得ない。
運の絡んだ作戦ではあったが、エイダは見事にやり遂げたのだ。
彼女に対する評価は自ずと上がる。
一方、ルナが自前の短剣で指先を浅く切った。
傷から滴る血を確認すると、伸ばした指をエイダの顔の前に運ぶ。
「舐めて。傷が治るよ」
「そんな能力があるのか」
「うん。本当は秘密なんだけどね」
促されたエイダはルナの指を吸う。
すると彼女の負った傷が徐々に治り始めた。
血が止まって顔色が良くなっていく。
自然治癒が加速しているようだ。
しばらく吸っていると、すっかりエイダの体調は改善されていた。
まだ重傷ではあるが死ぬことはなさそうである。
応急処置としては十分すぎるほどだった。
(どの系統にも属さない固有の能力か)
本来、不死身の特性に他者の回復は含まれていない。
きっと子孫の代で変異し、副次的な効果が生まれたのだろう。
ルナのような殺人鬼に他者を癒す力が宿るのは皮肉な話である。
自身の状態を確かめたエイダは微笑する。
そして彼女はぶつぶつと小声で呟き始めた。
「ルナの血を売れば莫大な利益が……」
何やら勘定をしているらしい。
まったく懲りていない。
己が死にかけていたことすら忘れているのではないか。
その強欲ぶりに呆れていると、少し離れたところから声がした。
「面倒だ。まさかここまでやられるとは」
坑道の分かれ道に誰かが立っている。
憎悪を隠さず睨み付けてくるのは最後の魔人――斑模様の男だった。




