第44話 生きる執念
エイダは痛みを我慢して地面を這い進む。
魔人から距離を取り、どうにか打開策を見出そうとしていた。
本来ならば苦痛で動くどころではないはずだ。
それでも彼女は力を振り絞って進む。
少しでも諦めた時点ですべてを失うと理解しているのである。
「クソ賢者がぁ! どこに行きやがった!?」
両目の見えない魔人は、怒鳴りながら暴れている。
手当たり次第に拳を振るって壁や地面を破壊していた。
エイダが音を立てずに移動しているため、正確な位置を掴めないのだ。
魔力による感知も働いていないらしく、見当違いの方向に攻撃していた。
聖水で傷付いたことに加え、平常心を失っているのが原因だろう。
よほど苛立っているのが分かる。
ぎらつく殺意から察するに、魔人特有の弱点ではないだろうか。
魔族の血肉を移植すると、身体能力の向上の代償として理性に悪影響を及ぼす。
それが如実に表れた結果、皮一枚のところでエイダの命を救っていた。
二人の動きを傍観していると、いきなり魔人に殴られた。
接近されても棒立ちだったのが悪かったらしい。
魔力を纏う拳が羊皮紙の身体にめり込み、そのまま破裂音を鳴らして穿つ。
今までと異なる手応えを得た魔人は、喜色を浮かべて追撃を放ってきた。
「てめぇは付き人の紙野郎かッ!」
凄まじい速度の打撃が身体を貫く。
もちろん何の意味もない。
どれだけ破壊されても修復させるだけだ。
たとえ修復させずとも自我は残る。
蔵書狂という存在が消滅するのは、世界そのものが死に絶えた時であろう。
魔人は執拗に攻撃を仕掛けてくる。
エイダを探すよりも、まずは目の前の同行者の抹殺を優先するようだった。
その判断に呼び、意図せず囮の役割を担ってしまっていた。
猶予を得たエイダは、少し遠くに這いつくばっている。
彼女は必死になって何かを貪っていた。
角度的にこちらからは見えないため、視点を少しばかりずらして確認する。
エイダは大量の錠剤を噛み砕いて嚥下していた。
彼女が常に携帯しており、沈痛や増血といった作用のある代物だ。
貴重だが即効性の高いそれをエイダは一気に摂取している。
錠剤の多用は負担が大きい。
しかし、そうも言っていられない。
迫る死の気配を鋭敏に感じ取ったエイダは、なんとか運命から逃れようと足掻いていた。




