第43話 絶命の性
蹴られたエイダが後ろへ吹っ飛ぶ。
壁に後頭部を強打し、身体を丸めて倒れた。
彼女は目を見開いて吐血する。
「ごぶっ」
激しく咳き込み、背中が震えている。
あまりの苦痛で声も発することができないらしい。
エイダは額を地面に当てて血反吐を垂らす。
(すぐに治療しないと不味いな)
まだ死んでいないが、意識を失えば終わりだろう。
なけなしの精神力が辛うじて命を繋ぎ止めている状態だ。
ひとまず詳しい状態を調べるため、そばに移動して話しかける。
「大丈夫か」
「と、でも……いだい、よ……」
エイダがくぐもった声を発する。
笑みもぎこちなかった。
一言の返答も厳しかったのか、大きく痙攣してまた吐血する。
魔人の蹴りの直撃はそれだけ甚大な損傷を起こしたのであった。
エイダの胴体に穴は開いていない。
ただ、内臓は間違いなく破裂しているだろう。
呼吸も苦しいに違いない。
明らかに致命傷だ。
エイダは立ち上がれず、不規則な呼吸音を鳴らしている。
一方、魔人は鱗の生えた両手を構えて宣言した。
「てめぇはここでぶっ殺してやる!」
魔人が殴りかかると、エイダは渾身の力でツルハシを振るった。
その一撃を魔人は片腕で受ける。
甲高い音と共にツルハシが弾かれた。
「ぐ、う」
エイダが大きく体勢を崩す。
彼女は尻餅をついてまた血を吐いた。
無茶な動きがさらなる負荷となったようだ。
両者の身体能力には埋め難い差がある。
苦し紛れの攻撃が通るほど甘くなかった。
仮にツルハシを防がれなかったとしても、それが形勢を揺らがすことはなかったろう。
魔人は軽々とツルハシを蹴り飛ばすと、エイダの首を掴んで持ち上げる。
「手間かけさせやがって……噂よりも弱いじゃねぇか。所詮はただの人間――」
発言の途中、エイダの片腕を包む固定具から聖水が噴射された。
内部に仕込んでいた魔道具を作動させたのだ。
魔人は悲鳴を上げてエイダを突き飛ばし、服で懸命に顔を拭い始めた。
苦痛の呻きに合わせて鮮血がこぼれだすのが見える。
死人のような顔色のエイダは、掠れた声で嘲笑う。
「く、はは……ははは。何度も……何度も、引っかかってくれるね。実に憐れだよ、君は……学習能力が皆無なのか、な」
「てめぇッ!」
激昂した魔人が顔を上げると、聖水で両目が焼け爛れていた。
視覚は完全に機能していないだろう。
怒り狂う魔人は手探りでエイダの足を掴み、無造作に投げ飛ばした。
何度か地面を跳ねた後、エイダはうつ伏せに倒れる。
片眼鏡は破損し、めくれた皮膚から血が滲む。
起き上がろうとした彼女は激しく嘔吐した。
血と胃液を断続的に噴き出している。




