第41話 愚痴る賢者
魔人の死体から離れてエイダを追う。
暗闇を低空飛行で進むと、すぐに追いつくことができた。
満身創痍のエイダは移動速度が遅い。
片脚を庇いながら早足で急いでいるものの、それが精一杯のようだった。
エイダは全身が血と痣だらけだ。
トロッコから飛び降りた際に怪我をして、さらに魔人の毒や鎌を受けている。
そもそも魔族との戦いで重傷を負っていたこともあり、よく生きているものだと感心するほどだった。
彼女の隣に着地して歩きながら話しかける。
「随分と無茶をしたな」
「それくらい、しないと……死んでしまうからね……」
エイダは息も絶え絶えに述べる。
多量の出血で顔色が悪い。
意識も朦朧としているようだ。
気を抜けば気絶するだろう。
壁に手をついたエイダが立ち止まる。
彼女は屈みそうになるのを堪えると、大きく息を吐いた。
それから力無く笑う。
「……ちょっと疲れた。私を乗せて飛べないかな?」
「可能だが断る。まだ限界ではないだろう」
「ははは……ヴィブルは、本当に……厳しいね。私はもう限界さ」
「ならば限界を超えてみせろ」
冷淡の告げると、エイダは小さく肩をすくめた。
彼女は背筋をゆっくりと伸ばすと、開き直った様子で述べる。
「君は私に期待しすぎじゃないかね。こう言ってはなんだが、ただの詐欺師だよ?」
「はっきり言ったな」
「すべてを伝えた仲なんだ。私だって本音で語るさ」
再び歩き出したエイダは鞄に手を突っ込む。
そこから彼女は医療道具を取り出し、手早く止血と解毒を済ませていく。
苦い顔で薬草を咀嚼しつつ、エイダは皮肉を込めて嘆いた。
「新しい仲間を加えるなら、回復魔術の使い手がいいね。襲撃されるたびに重傷を負っている気がするよ」
賢者エイダの名声は世界有数だ。
その一方で恨みを買い、命までもを狙われている。
魔爪の導示だけではない。
様々な利害や思想の相違から、彼女の存在を疎む者は決して少なくないのである。
追い詰められて図書館にやって来るまでに、彼女は幾度も襲撃を受けていた。
一時的に護衛を雇ったり、別荘を転々としながら籠城していたそうだが、それらは絶対の守りではない。
おまけにエイダは己の正体を隠している。
他人に関わりすぎると真の実力が露呈するため、基本的には自力で乗り切らねばならなかった。
エイダは落ちていたツルハシを拾い、杖代わりして進む。
「だんだんと襲撃側の戦力が上がっている。特に魔爪の導示は酷い。ここで魔人を倒したら、次は何が来るのやら。心配で堪らないよ私は」
彼女の嘆きには、現状に対する不満と諦めがない混ぜになっていた。




