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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第39話 逃避行は長続きしない

 エイダは用心深い面持ちでトロッコに乗っている。

 周囲に意識を向けながら思案し、この状況を乗り越える方法を模索していた。

 明らかに不利である要素が多く、悠長に迷っている暇もない。

 刻一刻と変わりゆく環境を利用するのは至難の業である。


 トロッコは無情にも走り続ける。

 坑道内は複雑に分岐しており、エイダには進路を変える方法がない。

 ただ加速するトロッコは、半ば暴走状態と化していた。


(本当にエイダは勝てると考えているのか?)


 無言で思考するエイダを一瞥しつつ、後方の暗闇を確認する。

 魔人の姿は見えない。

 彼らの身体能力ならば容易に追い付けるはずだ。

 エイダによる魔道具の反撃を受けて慎重になっているのだろう。

 戦力差に慢心して一網打尽にされる可能性を危惧しているに違いない。


 実際は力押しの戦法が最も厄介なのだが、向こうはエイダのことを優れた賢者だと思い込んでいる。

 別荘のすぐ近くにある坑道に誘い込まれたと解釈すれば、短絡的な追撃を仕掛けてこないのも頷ける。

 その絶妙な齟齬が僅かながらも猶予を生み出していた。


 荷物を漁っていたエイダは、不意にこちらを見て尋ねる。


「確認だが、君は戦闘に加わらないと考えていいのかな」


「率先して攻撃することはない。ただ、窮地であるのも理解している。最低限の補助は請け負ってもいい」


「ははは、偉そうな助手だね。でも助かるよ。ありがとう」


 エイダが苦笑した後、前方に視線を移す。

 崩落した天井から魔人が現れた。

 鎌を持つ背の低い男だ。

 他の魔人は出てこないので、おそらく手分けして追跡していたのだろう。


「先回りされたらしい」


「分かっているよ! まったく、内部構造を無視して突っ込んでくるとは、少しせっかちすぎないかね」


 エイダが文句を言う間に、魔人が翅を使って接近してくる。

 向こうは毒塗りの鎌を振りかぶっていた。

 すれ違いざまに切りつけてくるつもりなのだ。

 もうすぐそこまで迫っていた。


「どうする」


「もちろん逃げるさっ!」


 即答したエイダがトロッコから飛び降りた。

 勢いのまま地面に激突して激しく転がる。


 振り抜かれた鎌はトロッコを掠めるように通過し、羊皮紙の体を切り刻んでみせた。

 エイダへの攻撃が失敗したので狙いを切り替えてきたらしい。

 無論、毒も鎌も通用しない。

 羊皮紙の身体は何の問題もなく修復されていく。

 それを見た魔人は怪訝そうな顔をすると、地面に倒れるエイダに襲いかかった。

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