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エセ賢者と魔導書ゴーストライター  作者: 結城 からく


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第37話 窮地における活力

 蹴飛ばされたルナが宙を舞う。

 彼女は石炭の山に激突し、その衝撃に伴う摩擦で発火して見えなくなった。

 エイダは驚愕して呼びかける。


「ルナッ!?」


 その叫びに反応はない。

 石炭の山が赤々と燃えるのみだ。

 一方、魔人の男達は口々に何かを言っている。


「化け物め。人間の分際で我々の動きについてくるとは……」


「油断しすぎだ。賢者の仲間だぞ」


「しかし我々の敵ではない」


 どうやらルナについて愚痴をこぼしていたらしい。

 彼らはこちらを睨み付けてくる。

 ルナの猛攻で僅かに消耗したが、おそらく誤差の範疇だろう。

 エイダを始末するだけの余力は十分にあるはずだ。


(魔人が二人までならルナが圧倒していた。三人目が何かしたのだ)


 斑模様の男が何らかの能力を発動したのは確認している。

 相手の動きを封じる系統で、明らかに魔術とは別物だった。

 移植した魔族の眼球に宿る固有能力と思われる。

 他の二人を陽動にして、最適な瞬間でルナの隙を生み出したのであった。


(魔人の力を使いこなしている。連携力も申し分ない)


 彼らは魔人としての強みを存分に活かしていた。

 互いを支え合う形で上手く戦っている。


 ここまでの攻防により、三人が相当な実力者であることは分かった。

 能力による不意打ちがあったとは言え、あのルナをほぼ無傷で一蹴したのだ。

 組織内でも最上位の人間だろう。


 こちらがミノタウロスの魔族を抹殺した状況でありながら、彼らは堂々と現れた。

 それ以上の力があると自負しているのだ。


 確かに単純な力勝負になればミノタウロスに軍配が上がる。

 ただし、総合力で言えば魔人の方が優れていた。


 様々な考察を巡らせていると、斑模様の男が他の二人に指示を送る。


「俺が賢者をやる。お前らは付き人を殺せ」


 彼らの殺気がさらに高まる。

 油断は一切感じられず、全力を以てこちらを仕留めようとしていた。

 暗殺者として最適に近い心構えだ。


 慎重に迫る魔人を見て、羊皮紙の身体を端からほどいていく。


(魔人の知識は貴重だ。根こそぎ奪うか)


 主戦力のルナが敗北した。

 形勢的に不利であることは否めない。

 エイダが自力で逆転するのは難しく、この状況で静観を貫くべきではないだろう。


 ところが先にエイダが動いた。

 彼女は懐から小さな球体を投擲する。

 それは放物線を描いて飛ぶと、

魔人達の目の前で破裂した。


 強い閃光が辺り一面を覆い尽くす。

 直視した魔人は悶絶し、顔を押さえながら怒り狂っていた。


 その間にエイダは後方に移動していた。

 彼女は必死に手招きしながら走っている。


「行くぞ、ヴィブル! ここは撤退だ!」


 そう言って離れていくエイダの後ろ姿は、行動とは裏腹に勇敢だった。

 彼女はまだ戦意を喪失していない。

 魔人という脅威を相手に、偽りの賢者は打開策を見い出そうとしている。


 なるほど、彼女には厳しいと判断するのは早計だった。

 旅の中で成長し、他者に頼らずに勝利をたぐり寄せようと足掻く気概が見える。


「――ならば見せてもらおう」


 エイダはいかにして絶望を打破するのか。

 新たな興味関心を抱きながら、彼女の後を追って飛行を始めた。

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